メイジアン・カンパニー6巻まとめ/解説

ストーリー解説/考察

【続・魔法科高校の劣等生 メイジアン・カンパニー】は、前作の【魔法科高校の劣等生】にて挙げられていた「魔法資質保有者メイジアンの人権問題」についての具体的な対策活動を行っていく話で、文庫版小説第6巻まで発売しています。

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 前巻の第5巻では、魔法資質保有者メイジアンの社会的地位を大きく左右しかねない存在であるシャンバラを追っていました。以下の記事でまとめているので、振り返りがてら見て頂ければ幸いです。

 そして、第6巻ではついにシャンバラの一端に触れています。
 今回は、第6巻について章ごとにまとめ、解説や考察を行っていきます。また、第6巻の全面的なネタバレに当たるのでご注意ください。

 最後までお付き合いいただければ幸いです。

章ごとのまとめ

 第6巻は、以下の章で構成されています。

  1. 遺跡
  2. 幸福の源
  3. 謀議
  4. 逃亡
  5. 密出国
  6. ラサ潜入
  7. チベット脱出
  8. 相続人の使命

 それぞれの章の出来事を大まかにまとめて、それについて簡単に解説しています。また、個人的に抱いた感想などもちょこちょこと載せています。

 第1章は、前巻の最終章に引き続きシャンバラ探索について描写されていました。発生した出来事は大まかに以下となっています。

  1. シャンバラ探索の継続
    • 8/16…ブハラのチューダクール湖で回収した石の円盤白い鍵の示す方位の元に移動
      →市街地西部の歴史遺産『イスマーイール・サーマーニー廟』へ
      • 人払いの結界に護られた遺跡で祀られていた石の円盤青い鍵を回収
        →回収した円盤が次の方位を示す
    • 8/17…示された方位に従い『チョル・バクル』へ移動
      • 同じく祀られていた色違いの石の円盤黄色い鍵を回収
        →円盤の反応が消え、手詰まり
  2. シャンバラ探索が次の段階へ
    • 各種円盤の回収時の状況等を元に、達也が次の指針を推測
      →IPU連邦魔法大学ウズベキスタン校舎へ

 私は前回「コンパスの部品石の円盤同士で引きあっているからこそコンパスは次の指針を示す」という予想をしていましたが、全てのコンパスの部品石の円盤を回収したところで次の指針を示さなくなったことからおおよそ当たっていると考えられます。しかし、最後のピースが存在する場所が最終地点シャンバラ遺跡ではないことは予想外でした。
 とはいえ、あながち間違いでもなかったのは幸いです。

 ちなみに、この章では新しい魔法が登場しました。それが以下です。

遺跡

 第2章は、シャンバラの文明の一端について描写されていました。発生した出来事は大まかに以下となっています。

  1. IPU連邦魔法大学ウズベキスタン校舎へ潜入
    • 8/18…遺跡へ突入
      →シャンバラ遺産である”シャンバラ文明の情報大図書館“の回収開始
    • 8/19…回収終了し、”情報接続用の杖”を回収
  2. 帰国
    • ブハラ国際空港にてチャンドラセカール博士への偽装工作
      • シャンバラ遺跡の発見を隠匿
      • 遺跡の鍵の存在を隠匿
      • 代わりに二枚の石板を渡す

 第1章にて回収していた円盤を『鍵』が本当に鍵であったことが判明しました。ちなみに、正式名称は以下です。

  • 白い鍵→月の鍵
  • 青い鍵→空の鍵
  • 黄色い鍵→日の鍵

 また、円盤が存在していた場所と遺跡に発生した幻影の正体は、遺産へのアクセス権を巡る試練だったようです。幻影を破らなければ鍵にも遺跡にも辿り着けないのでしょう。

 そして、試練を乗り越えて獲得したシャンバラの遺産は、先述の通り”シャンバラ文明に関する情報“でした。シャンバラという文明そのものに関する情報であり、生活様式や社会形式、歴史、独自の魔法などなど様々な情報が残されていたようです。
 情報の受け取りは脳に直接情報を刻む形式で、アクセスには”情報接続用の杖”を用いる必要があります(杖は達也が回収したので達也以外はアクセスが出来ない状態に)。魔法演算領域と情報体次元イデアの繋がりを利用して、情報を受信しているのかもしれません。

幸福の源

 第3章は、第2章で得たシャンバラに関する情報を開示する話となっていました。発生した出来事は大まかに以下となっています。

  1. シャンバラ探索の後処理
    • 出国中に溜まっていた仕事を処理
  2. 情報開示
    • シャンバラとは?
      →シェルター内の都市国家群
    • 環境は?
      →魔法によって生活を確立
    • 魔法師メイジストの供給は?
      →据え置き型魔法伝授装置を利用してBS魔法師メイジストを量産(『導師グルの石板』は携帯可能な簡易版)
    • 他のシェルターは?
      →状態は分からないがいくつもある
  3. 次の目的地を設定
    • 他のシェルターには別の遺産が眠っている
      →危険な魔法もあるため、出来れば回収したい
    • 手がかりを得る為に次の目的地へ
      →チベットの首都ラサ『ポタラ宮殿』

 情報開示によって、シャンバラという存在の全体像が掴めるようになりました。シャンバラとは氷河期の中で生存するためのシェルターで、魔法によって社会基盤が支えられていた魔法文明だったようです。
 現代では魔法師メイジストが足りず生産性を維持するのが難しいため非軍事的事業にまで魔法を適用させることはできませんが、魔法伝授装置があれば実用レベルの魔法が使えない魔法資質保有者メイジアンであっても生産性のある特定の魔法を安定的に使用可能となるので、魔法で社会を支えられたのでしょう。もちろん、シェルターの中ということもあり総人口が少なかったから、魔法で生産性を維持できたという可能性もありますが。

 ちなみに、魔法の伝授自体はリモート端末を使うことで遺跡以外の場所でも出来るようです。これは携帯可能な簡易版の『導師グルの石板』とは違うもので、達也が回収した杖がリモート端末に当たります。
 マスターと設定されている者かマスターから権限を貸与された者が使用可能で、伝授される側の者の同意を得ることで魔法を伝授するようです。魔法伝授の原理は『導師グルの石板』と同じで、据え置き型の場合は端末を使って遺跡から魔法演算補助用の人造精霊デーモンを呼び出すようです。魔法が物理的な距離に左右されないから出来ることですね。

 また、今回の遺産で伝授可能な魔法は民生用の安全な魔法のみで、「バベル」のような危険な魔法は無かったようです。しかし、シャンバラ探索における「シャンバラ文明に存在する危険な魔法を封印、あるいは安全な用途へと転用する」という目的を達成できておらず、受信した情報には強大な魔法軍事力の存在を匂わせていたことからシャンバラ探索は引き続き行われるようです。
 ちなみに、次に向かう遺産の中身はシャンバラの「施設案内所」とのこと。

謀議

 第4章では、次の行動へ移るための準備が描写されていました。発生した出来事は大まかに以下となっています。

  1. FEHRサイド
    • 遠上遼輔がそろそろ退院
    • 遠上が帰国を検討
      →FEHRが遠上を送った理由が無くなったため
  2. 達也サイド
    • ラサへの潜入方法を検討中
      →高千穂は最終手段
    • スターズのカノープス大佐と交渉
      顧傑グ・ジーの捕縛を妨害した際の貸しの清算を求める
      • カノープス側は最新鋭偵察機の実戦データ取りの実験台になることを要求
        →達也は了承
  3. FAIRサイド
    • ロッキー・ディーンはリッチモンドにて潜伏中
      →大亜連合の支援により一人でも長期的な潜伏が可能に
    • 貸し出した腹心の返還を使者に要求

 まずはFEHRサイドです。
 FEHRは魔法資質保有者メイジアンの権利保護を行う組織として、民衆へのインパクトが強すぎる達也が同様の組織を設立した真意を探る為に遠上遼輔を潜入させました。しかし、おおよその真意は把握し、FEHRはメイジアン・ソサエティと提携したため潜入し続ける必要が無くなりました。そのため、遠上遼輔はメイジアン・カンパニーからの退職とUSNAへの帰国を考えているようです。
 個人的に、遠上遼輔は取り巻きのレギュラーキャラだと思っていたので意外でした。しかし、シャンバラ探索が始まってからカンパニーでの描写が減り、必然的に遠上遼輔の出番が減っていたので妥当なのかもしれません。FEHRとFAIRの小競り合いはまだ続くようですし、FEHRに戻した方が出番も確保しやすいのでしょう。

 次は達也サイドです。
 達也は世界的に要注意人物なので、気軽に出国できません。前回のIPU行きも表向きは「ソサエティとFEHRの提携式をスリランカで行ったわせたついで」です。達也は対外的な理由が無い場合隠密に行く必要があり、達也が行かなければならない今回は潜入手段を吟味する必要があります。
 戦時的緊張が高まっているチベットは各国の注目度が高い為簡単に潜入できませんが、高千穂宇宙ステーションは基本的に最終手段のため注目度が高い場所で使いたくはありません。そこで、チベットの偵察を行うスターズの機体に相乗りさせてもらおうとしているわけです。正直、達也側がスターズを利用しすぎているのはどうかと思っていたので、利用し合っていたのは安心しました。

 最後にFAIRサイドです。
 FAIRは既にリーダーロッキー・ディーンその腹心ローラ・シモンを除いて検挙され、組織は壊滅状態となり、リーダーも指名手配され何も出来ない状態でした。そのため、大亜連合による支援を条件にした腹心ローラ・シモンの貸し出しを断れなかったわけですが、作戦は失敗し腹心ローラ・シモンも返ってこないとなれば色々と苦言も漏れるでしょう。
 私は正直なところ、「大亜連合は達也への工作のために、前から達也とのいざこざを抱えていたFAIRを槍弾として利用しているだけ」だと考えていたので、ロッキー・ディーン側に譲歩しているのは意外でした。しかし、FAIRの実権を顧傑グ・ジーから奪った際の伝手が大亜連合と繋がっていて、そのため支援が続いていたようなので、支援を受けられるのも納得がいきました。

逃亡

 第5章は、逃亡模様について描かれていました。発生した出来事は大まかに以下となっています。

  1. FAIRサイド
    • 八仙のリーダー『何仙姑ヒーシャングー』がローラ・シモンの救出に出動
    • ローラ・シモンはカード占いで逃亡先を選定→逃亡
    • 十六夜調は憑けていたから追跡
    • 何仙姑ヒーシャングーとローラ・シモンが合流→囮を使って式鬼を幻惑
    • 十六夜達の追跡組が囮にハマる(追跡失敗)→ローラ・シモンは逃亡成功し出国
  2. 達也サイド
    • 達也と光宣の二人が那覇で監視を振り払う
    • 日米共同の嘉手納基地に入る

 まずはFAIRと十六夜家サイドです。
 ローラ・シモンの救出に八仙のリーダー何仙姑を出すのは厚遇すぎるような気はしますが、やはり魔女ローラ・シモンの力が欲しいのでしょうか。FAIR自体は元々大した駒には成り得ないですし、その辺りしか理由は無い気がします。また、八仙も達也組と戦う描写ばかりだったので強者としてのイメージを抱き難かったですが、ここでは世界最高クラスの特殊工作部隊としての能力を発揮していました。
 対して十六夜家、というよりも十六夜調は、前回予想してたように元老院の兵士としての役割を全うしていました。結果は「十師族並みの能力」という点からすれば肩透かしに感じますが、相手は大亜連合軍特殊工作部隊の最高位ですから「相手が悪かった」と考えていいと思います。まあ自信過剰気味で想定が甘いところは同格以上の敵と争う上で致命的なので、印象が悪くなるのも仕方ありませんが。

 達也サイドは特にありません。
 最高位の忍術使い九重八雲の弟子である達也と対人が突出している光宣のコンビなので、監視を振り切るのも簡単でしょう。

 ちなみに、この章での新出の魔法は以下です。

  • 幻視ヴィジョン(使用者:ローラ・シモン)
  • 追捕之符(使用者:十六夜調)
  • 変化(使用者:何仙姑ヒーシャングー

密出国

 第6章は、第5章で逃亡した者達の密出国について描かれていました。発生した出来事は大まかに以下となっています。

  1. カンパニーサイド
    • 遠上遼輔が出国を決意←達也もFEHRとの関係を考え補助
    • 遠上退院後に辞表を提出し出国
      →七草真由美との問答があるも無事帰国
  2. 達也サイド
    • 戦略偵察機スプライトを使い、達也と光宣が出国

 前の章で既に出国脱出済みのローラ・シモンは出ていません。

 まずはカンパニーサイドです。第4章で帰国を検討していた遠上遼輔がついに行動に出ましたが、同僚の七草真由美に捕まりました。真由美は直前に、遠上が避けていた家族についての話題を振っているだけに簡単には引けなかったのだと考えられます。
 とはいえ、今まで遠上はカンパニー内ではお荷物状態だったようなのでカンパニーに置いても仕方ないのでしょう。まだFEHRの出番は多くあるようなので、今後も遠上はメインに近い扱いで登場すると考えられます。

 次に達也サイドです。とはいっても、第4章で話していた通りに偵察機に乗って密出国しただけなので振り返るべき点は無いでしょう。

ラサ潜入

 第7章では、ラサへの潜入における出来事について描かれていました。発生した出来事は大まかに以下となっています。

  1. ラサへの潜入成功(チベットは第5巻の時点から引き続き厳戒態勢中)
    • 町の外で大亜連合軍とIPU軍が暗闘中
    • 暗闘中の”八仙”韓湘子に達也たちが捕捉され、戦闘への介入を選択
      →韓湘子対策を準備していた光宣と、それによって注意かIPU特殊部隊”サプタ・リシ”ミザールによって大亜連合軍を撃退
    • 消耗の激しいIPU軍は撤退し、達也たちはポタラ宮殿へ
  2. ポタラ宮殿へ侵入
    • 紅宮の奥の遺跡へ(遺跡に入るための鍵は杖)
    • ウズベキスタン校舎の遺跡と同じく情報を読み取る
      →今回は達也と光宣の2人で読み取る

 チベットは大亜連合軍による厳戒態勢となっていますが、これは第5巻にて光宣がラサに単独で潜入した際に八仙に捕捉されたためです。八仙は大亜連合軍内でも高位の部隊なので、その隊員2名を同時に接敵して逃亡に成功している不審人物が出現した状況では厳戒態勢を敷かざる負えないのでしょう。
 そんな中で、達也がIPU側を焚きつけたためチベットはIPUと大亜連合の暗闘の場となっています。当然ながら光宣を捕捉した八仙も動員されているので、達也と光宣の二人組であっても捕捉されてもおかしくはありません。

 ちなみに、第5巻にて大陸方面において人脈の無い達也の情報源となっていた花菱兵庫の修行元こと”民間軍事会社PMSC“ですが、軍事方面において場合によっては政府を上回る情報収集能力を持っているようです。今回、花菱兵庫が頼ったのはイギリスの「アンシーンアームズ」ですが、IPU方面からも依頼を受ける為か八仙の情報も所有しているようです。

 また、この章にて新しく登場した魔法が以下となっています。

チベット脱出

 この章では、達也と光宣の帰国までが描かれていました。発生した出来事は大まかに以下となっています。

  1. ポタラ宮にて
    • 達也と光宣の二人の交代制で情報読み取り
      • 情報の重要性を鑑みてバックアップ要員として2人共に全てを読み取る
    • 情報の読み取りに一晩を消化
  2. チベット脱出
    • 達也たちが戦線から離脱した後からさらに戦闘は激化
      →八仙陥落の隙を突きたいIPUとそれを阻止したい大亜連合の激突
      • バレずに素通りが出来ないため足止めをくらう
      • “八仙”鐘離権を発見した光宣に達也がリベンジ戦の許可を出す
    • 光宣が鐘離権を含む大亜連合の部隊を殲滅後、戦線離脱
      →付近で見ていた”サプタ・リシ”メグレスは手を出さず見送る
    • ステルスダイバーで帰投
      →米軍潜水空母「バージニア」を経由してプライベートジェットを使い帰国

 第3章にて目標として挙げていたポタラ宮の遺産「シャンバラの施設案内所における情報」を手に入れました。案内所には、図書館では匂わされていただけであった軍事力関連の危険な魔法の情報もあったようで、それについて達也は「可及的速やかに封印しなければならない」としています。達也は「戦略級魔法による国家間の軍事バランスの調整」を許容しているため間接的に戦略級魔法の存在を許容していますが、それでも存在自体を抹消しようとしていることから既存の戦略級魔法以上の危険度であることは間違いありません。
 ちなみに、ウズベキスタン校舎の遺産シャンバラ図書館の時とは違って光宣にも全ての情報を受信させましたが、これは達也と同じように精霊の眼エレメンタル・サイトで常に常人では処理しきれない量の情報を処理していて、一度に多くの情報を処理することに慣れているからという理由もあるでしょう。

 また、チベット脱出時に脱出の障害となっていた八仙を倒しました。これは、脱出の障害排除や光宣の雪辱戦Part2という意味合いだけでなく、最近ちょっかいを掛けて来始めた八仙の戦力を削っておきたいという意味合いもあったのではないでしょうか。
 大亜連合は、達也暗殺に通常戦力ではなく特殊戦力を使う方針にシフトしているようですし、それを把握した達也が遭遇した八仙を積極的に潰そうとするのはおかしくないでしょう。

 因みに、この章で新しく登場した魔法は以下です。

相続人の使命

 この章では、次のシャンバラの遺産に関する情報整理について描かれていました。発生した出来事は大まかに以下となっています。

  1. 達也サイド…シャンバラに関する情報整理(8/27)
    • 案内所で得た目下の重要情報は2つ
      • 戦略級魔法(仮称:天罰業火ラス・フレイム)の所在地
      • パラサイトに関する魔法の所在地
    • 重要度は『天罰業火ラス・フレイム』が上
      天罰業火ラス・フレイムへの対処が優先
  2. FAIRサイド…ローラ・シモンの帰還(8/27)
  3. FEHRサイド…遠上遼輔の帰還(8/27)

 案内所で危険な魔法に関する情報が出されました(達也が『天罰業火ラス・フレイム』と名付けたということは名前は読み取れなかった、あるいは無かったのでしょう)。天罰業火ラス・フレイムについてリーナは「ソドムとゴモラに降った神罰の火」と例えていて、達也は「神罰の火の伝説は天罰業火ラス・フレイムを元にしている」と推察しています。個人的にこれは重要な情報だと考えています。
 というのも、メイジアン・カンパニーに入ってからはサイエンス寄りの魔法ではなくファンタジー寄りの魔法が多数登場してきているため、伝説や神話の元になった魔法が出てきてもおかしくないからです。今までは古式魔法として「伝説を元にした魔法」が出てきていましたが、これからは「伝説の元となった魔法」が登場するのでしょう。

 ちなみに、天罰業火ラス・フレイムが遺された遺跡はシャスタ山にあるとのことなので、FEHRやFAIRとの絡みもまだまだ続くのでしょう。FEHRはソサエティと提携を結び、FAIRは(なぜか)大亜連合の助力を受け取っているので、大きめの騒ぎを起こせる力はあります。作中では大統領選挙も近かったはずなので、それにも関連して一波乱ありそうですね。

 以上が第6巻に関する簡単な振り返りと感想です。

新魔法紹介

 この巻にて新しく登場した魔法は以下となっています。

試練の幻影

 名称不明の魔法で、シャンバラ遺跡の探索時に要所に仕組まれていた設置・領域型の魔法です。シャンバラの遺産を得るために必要な試練なようで、これを破らなければ先には進めないようです。

 前述の通り、幻影は設置型のためその場から動かせませんが、領域型のため領域内に入った時点で強制的に幻影を見せられます。幻影の内容は”塩?の砂漠”と”飛翔する鷹”であり、鷹が遺跡の場所へ案内するようです。幻影自体に害は無く、領域型なので外へ出れば幻影は解かれると考えられます。

幻視〈ビジョン〉

 魔女術ウィッチクラフトであり、魔法というよりも超能力に近いものだと考えられます。受動的に発動する場合が多いようですが、準備によって能動的に発動することも出来るようです。

 幻視は占術の一種であり、未来視に類する魔法です。能動的に発動する場合は準備が無ければ精度はまちまちで、タロットカード等で占いを補強する必要があるようです。

追捕之符

 符を用いた式神術の一種です。
 取り憑かせた式鬼とその式鬼を追尾する符の一対で構成されています。

 追尾範囲は判明していませんが、魔法に物理的距離は関係無いので術者の腕次第でしょう。術者の十六夜調は十師族と同レベルの魔法師とのことなので、最低でも本州はカバーできると考えます。

変化

 名称不明の魔法で、仮装行列パレードと同じく外見を変化させるようです。仕組みは異なるものの仮装行列パレードと同レベルの偽装を行えます。
 仮装行列パレードと同じ様に、他者に偽装を施せるかは判明していません。

 また、例え魔法の適用者が自身のみであっても、仮装行列パレードと同レベルとなると精霊の眼エレメンタル・サイトレベル情報解析技能が無ければ看破出来ないため、誰であっても脅威でしょう。

カーラゴーダ

 神仙術に類する古式魔法です。現代魔法のプロセスである「原因となる事象を変化させることで結果となる事象を変える」のではなく、原因となる事象を省略して直接結果となる事象を顕現させるようです。

 火傷を負わせる風を引き起こす魔法です。本来ならば火傷を負わせる場合、熱という原因を発生させることで火傷を引き起こすわけですが、この魔法では熱を発生させずに火傷を引き起こします。そのため、応用力には欠けていますが「火傷を負わせる」という一点に関して言えば強力な効果を発揮します。

迷霧

 第九研で開発された古式魔法と現代魔法のハイブリット魔法です。敵の注意力の面から弱体化させる魔法となっています。
 敵の注意力を削いで、味方を見失わせ道を見失わせ伏兵の罠に引きずり込む、という用途のようです。

 幻覚ではなく実体を伴う霧となっていて、そこに領域型の精神干渉系魔法を組み合わせていると考えられます。

黄泉八雷神

 ”偽神魔法”とされる古式魔法で、神を偽る高等魔法です。神という象徴を用いるだけあって現実の偽装力は高いようですが、その分難易度も高く、古式魔法の中でも最高難易度とされています。
 この魔法に使われているのは黄泉国の八柱の神である”八雷神やくさのいかずちのかみ“で、自然現象に因んだ神とのことです。光宣は自身の魔法力と大量の呪符の使い捨てによるゴリ押しで、「一度限りの必殺技運用」を行うことで魔法の使用を可能にしています。

 八雷神の通り八条の雷撃の束で攻撃を行う魔法で、蛇の形をした雷が身体を這い回るようです。蛇を象るため単に感電するだけでなく、巻き付いて帯電し肉を食い破って胴体を貫きます。

天罰業火〈ラス・フレイム〉

 シャンバラの戦略級神話級?魔法で、「ソドムとゴモラの神罰の火」に例えられています。ヨーロッパの伝承がインド神話由来の魔法に例えられているのは違和感がありますが、神話なんて色々と混ざっているものですし、地続きなので同じ物を元にした伝承が多数あってもおかしくはないでしょう。
 神罰の火は町やその周辺を飲み込むほどの火災というだけで、あとの大きな特徴は無さそうです。それだけでも凶悪ですが。

 作中では、重金属をプラズマ化して撒き散らし周囲を焼く”一点解放型”の「ヘビィ・メタルバースト」と、散布した酸水素ガスを一斉起爆させ焼き払う”広域爆撃型”の「トゥマーン・ボンバ」の掛け合わせに近いと考えられています。トゥマーン・ボンバにおける小規模爆発の一つ一つがヘビィ・メタルバーストと同程度の威力になるということかもしれません。
 どちらも戦略級魔法の中でも特別強力な方なので、天罰業火ラス・フレイムの凶悪さが伺えます。

主な陣営の動向

 次は、作中における主な陣営の動向について触れていきます。

メイジアン・カンパニー(達也陣営)

 メイジアン・カンパニーこと達也陣営の目標は「非暴力的手段での魔法の社会進出」で、そのために危険度が高いと考えられる先史魔法文明”シャンバラ”を探索し、無害化しようとしています。今まで以上に危険な魔法が見つかれば魔法の平和利用の大きな障害となるため、現状の最優先事項となっています。
 現在はシャンバラ探索の途上であり、一旦の収穫を得て次の目標を定めています。

 目標は二つあり、優先順位から①シャスタ山、②富士山麓となっています。
 達也はシャンバラ探索自体を最優先にして動いているため、すぐに渡米の準備を始めるはずです。ご存じの通り、達也はホワイトハウスに伝手があるため渡米は簡単でしょうが、伝手である国防長官は「秋に大統領選がある(現在8月末)」とされ忙しいため、どれだけ融通してもらえるかは不明です。

 達也的にも横槍は防ぎたいはずなので、強引に行くことは無いでしょう。とはいえ、情報の読み取りには達也の同行が必要なので、達也が渡米することは確定事項です。
 そのため、達也自身の渡米がもたつく場合は光宣を先行させて遺跡を押さえることになるでしょう。光宣ならば高千穂経由で楽に潜入可能で、設置型の幻惑魔法で遺跡を隠すことができ、精霊の眼エレメンタル・サイトで調査も出来るので先遣隊には持ってこいの人材です。

FEHR

 FEHRは元からバンクーバーの州政府に意見することが出来るレベルの発言力を持っていましたが、影響力は米国内でもほぼありませんでした。しかし、世界的に注目度が高いメイジアン・ソサエティと提携を結ぶことで、”メイジアン・ソサエティと最初に提携を結んだ組織”として注目を集めました。
 組織としても小規模ですが、スターズからの援助を得られる契約もあるので出来ることは多くなったと思われます。

 とはいえ、スターズには色々と融通しなければならないことは多く、FAIRとの因縁も考えれば対FAIR関連で雑用を押し付けられる可能性が高いと考えられます。

FAIR(大亜連合?)

 FAIRは現在壊滅寸前の状態でしたが、大亜連合の息のかかった組織の支援によりなんとか首の皮一枚繋がった状態を保てています。そのため、今後は大亜連合の方針次第となるでしょう。

 現在判明している大亜連合の目的は「司波達也の暗殺」です。そのため、カンパニーにちょっかいを掛けるのは止めないでしょうが、この巻で八仙が2人死亡し、前の巻では達也に1人やられています。つまり、八仙に半数近い欠員が出ていることになります。
 大亜連合の層ならばすぐに補充は可能でしょうが、IPUとの小競り合いも過熱してきた現状で達也に力を割くとは思えないので、FAIRの動きも一旦落ち着くと考えられます。

 とはいえ、メタ的に考えると次の舞台はUSNAおよびシャスタ山なので、FAIRは絡んでくると考えられます。となると、普通にUSNAの捜査の手がFAIRに届いて、そこからFEHRも絡んで何かしらの騒動が起こるのではないかとも考えています。

その他

 ここからはその他の陣営を見ていきます。

 まず、USNAは大統領選挙で忙しいので、達也が穏便に動いている限りは積極的に何かをすることは無いでしょう。とはいえ、次の舞台がUSNAである以上は何かしらの動きが見られるはずです。先述のように、FAIRを見つけて小競り合いが発生するのはあると思います。

 次に、IPUの場合は舞台が切り替わるので単純に出番は無くなりますし、チベットで大亜連合との小競り合いが過熱しているので手は出せないでしょう。

 最後に、今回醜態を曝してしまった十六夜家ですが、まだ日本が舞台になるのは早いと思われるので特に動きは無いでしょう。

 他にもパラサイト関連の話題で八代家との契約話にも進展はありそうですが、特に絡んでくることは無いはずなので深くは触れません。

 以上が、主な陣営の動向についてになります。

作中でのシャンバラ

 この巻でシャンバラに関する全容が明かされました。そこで、一旦シャンバラの情報をまとめていきます。

シャンバラとは

 第3章で解説された通り、作中でのシャンバラは3万5000年前から1万5000年前の氷河期を乗り越えるため世界各地で作られたシェルターのことを指す都市国家です。そのため、中緯度から高緯度地域に複数点在していて、中央アジア圏以外にもシャンバラは存在しています。
 また、前述の通りならばシャンバラ文明は2万年近く存続していることになりますが、これはいくつもの場所で放棄と建設を繰り返しているからのようです。おそらくは以下のような流れだと考えます。

  1. シェルターを作る
  2. シェルター内で人類は繁栄を謳歌する
  3. 人類の生活が1つのシェルターで収まりきらなくなる
  4. 幾つか他のシェルターを作って、一部がそこに移り住む(文明の拡大)
  5. 古い方のシェルター内で人類が滅ぶ(文明の衰退)
  6. 2~5を繰り返す

シャンバラの魔法

 シェルター内では魔法を生活基盤に組み込むことで社会を維持しています。これにより、氷河期という生産性の無い時代で人類の生活を維持出来たのでしょう。
 具体的にどんな魔法をどういった事に使っていたのかは明かされていませんが、メイジアン・カンパニーは魔法を人類の生活に必要な生産性のある技術として社会に組み込むことを目標とした物語なので、後々細かい話が小出しされるでしょう。

 現代で魔法の生活基盤への応用が出来ていない理由は「魔法が属人的な技能であり消費が効かない」からですが、シャンバラはそれらの問題を解決していることになります。問題を解決出来た要因は大まかに以下の2つでしょう。

  1. 魔法伝授装置の存在
  2. パラサイト関連の魔法

魔法伝授装置

 まずは最重要の「魔法伝授装置」です。

 魔法伝授装置は、特定の魔法を使えるようにする訓練法を示した”指南書”ではなく、魔法演算領域の一部を特定の魔法用に改造する装置です。この改造とは、魔法演算領域に特定魔法演算用の想子情報体デーモンを宿らせる処置のため、本来使える魔法を同じレベルで使用できなくなったり対象の魔法演算領域の大きさによっては他の魔法が使用不可能になったり、最悪の場合は容量不足で魔法演算領域のオーバーヒート=死に至ったりします。
 しかし、それによって得た魔法は補助無しで容易に使用可能になり、自在に操れるようになります。例えそれが戦略級魔法のような高度な魔法であっても変わりません

 そのため、魔法伝授装置と称しましたが”BS魔法師への改造装置”の方が近いかもしれません。

 本来、魔法演算領域はブラックボックスとされていて改造はおろか分析さえ至難の技です。
 魔法と精神の関連性についての研究を行ってきた四葉家ならば魔法演算領域の特性についての分析法を確立していますが、改造法は編み出せていません。四葉深夜の特異魔法である”精神構造干渉”でのみ精神の活動領域を魔法演算領域に改造して、生来の魔法演算領域に人造の質の悪い魔法演算領域を追加することができましたが、体系的な方法は確立されていません
 魔法伝授装置の場合は装置自体石板の製造技術さえ継承されていませんが、1つの石板に対して1つの魔法補助用のデーモンが宿っていて、1人1つの制限はあるものの何度でも使い回すことが可能です。

 また、魔法伝授装置の製造法は明かされていないものの、シャンバラ文明が開発した技術であることは分かり切っているのでシャンバラの探索を続けていくことで明かされていくと考えられます。既に達也は魔法遺物レリックの開発に成功してるので、今後魔法伝授装置の開発を行う可能性は高いでしょう。

 ちなみに、魔法伝授装置には据え置き型と携帯型の二種類が存在します。据え置き型は装置の持ち運びが出来ないものの、より複雑で強大な魔法を宿らせることが出来ます。対して携帯型は逆で、装置の持ち運びは出来るものの宿らせる魔法は据え置き型よりも単純で弱くなります。
 また、作中では携帯型の魔法のみ登場していますが、それがある意味戦略級魔法とも言える「バベルの塔の神罰」です。そのため、携帯型の方が弱くなるとはいえ現代魔法と比べて強力な魔法を仕込めることが分かります。

パラサイト関連の魔法

 次がパラサイト関連の魔法です。

 先述の通り、魔法は属人的で消費の効かない技能のため生産性のある事業として社会に組み込むことは出来ません。それは魔法伝授装置があっても変わりません。なぜなら、魔法を宿らせることが可能である魔法因子保有者メイジアンの総数も少ないからです。
 メイジアンの総数は総人口の1%程度とされているので、その全てに魔法を行き渡らせても生産性を維持するには足りないでしょう。そして、魔法への適性が不足した者が無理に魔法を使えば、魔法演算領域のオーバーヒートで死亡してしまいます。

 そこで活躍するのがパラサイトです。

 パラサイトは「人間よりも魔法に近い存在」と形容されていて、主に魔法関連の恩恵が受けられます。その中でも注目するべき点が”魔法使用に対する耐性“で、仮に元が魔法への適性が一切無い人間であっても、魔法の過剰行使に耐えることができます。つまり、魔法演算領域のオーバーヒートが発症する可能性が極端に低いわけです。
 そのため、パラサイトを社会に組み込むことが出来れば魔法という再現性が高くクリーンな技術に生産性を見積もることが出来ます

 もちろん、出来るならもうすでにやっている者はいるでしょう。パラサイトという魔物異物になることで人間社会から排除されますし、種の存続のために本能的に人を襲い数を増やそうとするため普通は人間社会と相いれることはありません。
 しかし、シャンバラに存在するパラサイト関連の魔法を使えば魔法を社会に組み込むことも可能になります。

 作中で登場したパラサイト関連の魔法は「人をパラサイトに変える魔法」と「パラサイトを人に戻す魔法」の二つです。
 まず、「人をパラサイトに変える魔法」は今までも存在していましたが、特徴は”ノーリスクで人をパラサイトに変える“という点です。パラサイト化は精神に異物が混ざる影響で精神の変質し、付随して行動が変容するからこそ社会から排除されるわけですが、おそらくはそれらが無くなるのだと考えられます。人間時代と同様な精神状態でいる確約があれば、社会からの許容度が上がるでしょう。
 さらに、今まで存在していなかった「パラサイトを人に戻す魔法」です。いくらパラサイトになるリスクが無かったとしても、人外になるのはそう簡単に許容できませんし、人間社会に許容されるのは容易ではありません。しかし、容易に人間に戻れるというならば社会からの許容度はさらに上がるでしょう。程度は信用問題なので一概には言えませんが。

 以上により、シャンバラ文明ではパラサイトを人間社会に組み込むことに成功にしていて、魔法を使える者を増やし魔法という技術を生産性のある技術として社会に組み込むことを可能にしたのでしょう。

 以上が、シャンバラ文明において魔法を社会に組み込めた理由だと考えられます。
 また、余談ですがシャンバラは都市国家ということで総人口が少なかったとも考え、だからこそ魔法で社会の生産性を維持出来たのだと考えました。

 今回の「メイジアン・カンパニー第6巻の振り返り等」は以上で終わりになります。魔法伝授装置の最重要部分であった特定魔法演算補助用のデーモンについての考察もしたいところですが、また別で行いたいと思います。

 最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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