メイジアン・カンパニーの展開予想

ストーリー解説/考察

 【魔法科高校の劣等生】の続編である【メイジアン・カンパニー】は2巻まで発売しており、2021年11月10日には3巻が発売します。

 1巻では達也の現在地を再確認するように、メイジアンの人権の為の組織を設立し始めました。例えば国際的なメイジアンの互助組織である国際NGO「メイジアン・ソサエティ」の設立および副代表への就任。魔法技術をメインで利用した最初の民間企業「株式会社ステラ・ジェネレーター」の設立および社長への就任。日本でのメイジアンの人権自衛補助団体「一般社団法人メイジアン・カンパニー」の設立および専務理事への就任。

  • メイジアン
    • 魔法師としての資質基準に満たない者を含めた魔法因子保有者の枠組み、あるいはそれらの呼称

 2巻では今後達也が関係するであろう外部組織の顔見せが行われました。例えばUSNAで魔法因子保有者の保護活動を行う魔法結社「FEAR」との会談の約束。十師族「八代家」への魔工院の校長打診および技術協力の約束。USNAでの反魔法主義者との積極的な闘争を目的とする犯罪結社「FAIR」との衝突。日本のFAIRのような組織である「進人類解放戦線」を支援していた元老院四大老の配下である百家「十六夜家」への訪問。

 以上のように1,2巻では現状の立ち位置と関係図の明確化が行われました。なので3巻以降はメイジアンの人権自衛についての本格的な物語が進んでいくと考えられます。

なので今回は司波達也主人公の現状の整理と今後の展開についての簡単な予想を行います。

 最後までよろしくお願いします。


現状の整理

 魔法科高校の劣等生では、主人公司波達也は一貫して「魔法師(主に深雪最愛)を道具である”兵器”から一般市民と同等の人権を保有する”人間”へと転化させる」という目的を持っています。前作では、目的の為の”手段”と”立場”を得る物語となっており、手段として「ESCAPES計画」を、立場として「四葉の中枢」、「トーラス・シルバー」、「抑止力」を獲得しました。

手段

 ESCAPES計画は正式名称「恒星炉による太平洋沿海地域の海中資源抽出及び海中有害物質除去」計画で、「Extract both usful and harmful Substances from the Coastal Area of the Pacific using Electricity generated by Stellar-generator」の略称です。

 名称通り、「恒星炉により生み出した電力で水素やレアメタルなど海中資源を抽出し、同時に回収したヒ素や硝酸など海中有害物質を除去する」という試みです。従来の技術では採算の取れなかった方式とされていますが、魔法恒星炉という存在が前提を覆したようです。また恒星炉の生産した電力を直接送電することも可能なので、技術の信用を得て都心に配置することで国のエネルギー需要を牛耳ることもできます。

 そんな新時代重要事業の前提に”魔法”恒星炉がある為、エネルギー需要が高まるほど魔法師の価値も比例して高まります。もちろん魔法師の拘束時間が増えるほど負担が大きくなり、恒星炉の”部品”になってしまいます。ですが、それを回避するための人造レリックを開発しているので、魔法師は縛り付けられた”部品”ではなく魔法を点火するだけの点火係になることができます。

 魔法師が一般社会の生活基盤に組み込まれ一般的な需要が高まることで、戦争などで”消費戦死“させることを避けるために兵器的な需要が低くなります。むしろ戦時の方がエネルギー需要が高まるので、反比例的に魔法師の兵器利用を抑えることができます。

 このトレードオフの関係が達也の目指す目標です。兵器利用からのESCAPES脱出手段ということですね。

 ですが、どんなシナリオにも穴はあります。それに達也は技術はあっても一介の高校生でした。社会に何かを成すための立場も、シナリオの穴を修正するための立場もありません。だからこそ、得た立場があります。

立場

 達也が中盤から終盤にかけて得た社会的な立場は前述の三つです。

四葉の中枢

 四葉家の中枢に位置するという立場は一般社会というよりも日本政府に最も効果があります。

 四葉家は成立の経緯故に政府の中枢に強く出ることが出来ます。四葉は、魔法師開発黎明期の実験体の内第四研究所の検体でしかなかった魔法師でした。ですが、研究所を乗っ取り結界で隔離し外部の関係者を根絶させたため、その能力と事実故に政府は四葉に手を出すことができなくなったという背景があります。

 そのため四葉は日本政府に強気でいられますし、第四研時代からオーナーであった”元老院四大老”東道青葉との繋がりあるので、政府に裏側から働きかけることが出来ます。

 実際に「採算の取れなかった従来の方式を採用している」という関係上政府役員のような経済や科学の素人には懐疑的に受け取られます。なので混乱を少なくするためにESCAPES計画を潰す方針で動きますが、東道青葉の働きかけで政府の横やりを防ぐことができています。

 また同じく東道青葉により大企業グループの代表である北山潮も早々に抱き込むことが出来るようになり、そこから大物資産家を釣っています。それにより、達也の考案していた事業スキームが採算に乗る理想の形へとまとまり、資金も潤沢になりました。

トーラス・シルバー

 トーラス・シルバーは天才魔法工技師として世界的に名を馳せています。そのため、一介の高校生ではなく「トーラス・シルバーである司波達也」が発表した魔法技術は世界的な信用を得ることが出来ます。つまり、世界的な権威を得ている研究者及び著者などの専門家の後押しを受けやすくなります。

 発表当時敵対しているベゾブラゾフは冗談めかしていましたが「共同研究を申し込みたい」と発していました。そうなると当然ながら第三者的立ち位置の国家の人間は好意的に受け止めます。作中ではエネルギー問題により勃発した第三次世界大戦後を経ていますから猶更でしょう。

 これにより恒星炉が世界に広がり「魔法師が地位を確立した社会」が広まれば、深雪の安全が高まります。

抑止力

 これは達也の戦略級魔法師としての役割です。

 作中の世界情勢は「新ソ連とUSNAの対立を中心として魔法兵器による均衡を保っている」とされるので、魔法が兵器利用できなければ小国が飲み込まれることになります。ですが前述の通りESCAPES計画は魔法師の兵器利用を止める計画なので、成功してしまえば逆に戦争の火種を大きくすることになります。

 そこで戦略級魔法を抑止力とすることにしました。達也のようなごく少数の超強力な魔法師を平和の為の人柱とすることで、その他大勢となる魔法師のみ兵器利用から離れることになるのです。また、戦略級魔法を材料とすることで国家への鉱床を持ちかけることもできます。

 作中では達也個人がUSNAと同盟を結んでいます。達也は強力と資金の確約を経て、達也と同盟を組んだUSNAの国防長官は司波達也という抑止力を背景に政治的権威を高めています。

 以上の手段と立場を前作で得ています。これにより続編ではESCAPES計画の具体的な活動と、それを軸にしたESCAPES計画の拡大を行っています。それが冒頭の設立および就任ラッシュです。 

メイジアン・ソサエティ副代表

 前作で出てきた「軽視されてきたメイジアンの人権をメイジアン自身で守る」という人権自衛のためにメイジアンの互助組織として設立された国際NGOがメイジアン・ソサエティです。メイジアンの人権自衛を提唱したアーシャ・チャンドラセカール博士が代表となり、達也が副代表となりました。

 達也が副代表に就任した理由は前提に達也の存在があるからです。メイジアン・ソサエティは国際社会に対する意見を通すために国家と同等の”力”を保有する必要があります。また、魔法師排斥運動に対するメイジアンの拠り所として自立させる程の経済力が必要になります。その両方を賄えるのが達也です。

 戦力としてだけでなく、生活基盤を支える経済力も達也という抑止力とESCAPES計画が支えることが出来ます。そのため、チャンドラセカールがメイジアン・ソサエティという組織とスリランカ島という土地を確保することで代表、達也が恒星炉を提供し自身という抑止力の席を設けることで副代表となりました。

 設立に先立ちスリランカをインド・ペルシア連邦IPUから独立し、本拠地を島南端のゴールに設けています。

 IPUはスリランカを差し出すことでメイジアン・ソサエティとの緊密な関係を築くことができ、何よりも達也という国際的な抑止力からの好意を引き出せる可能性が高くなります。また、メイジアン・ソサエティの設立における立ち合い人として、イギリスが戦略級魔法師であるウィリアム・マクロードを代理人として参加し国際承認することで、イギリスもまた利益を得るとともに魔法師との併存という自国の政治を後押しする目的があります。

 まだメイジアン・ソサエティの活動詳細は明かされていませんが、既に国際社会へ多くの影響を与える組織となっています。

ステラ・ジェネレーター社長

 日本での恒星炉プラント事業が軌道に乗り、複数企業の共同事業体コンソーシアムから恒星炉事業を担う企業として設立された会社が「STELLARステラGENERATORジェネレーター」 です。その社長に達也が就任した理由として、恒星炉を開発するだけでなく事業スキームを考案し、最大のバックアップである北山潮との関係も深いからですが、さらに達也自身が政府からの圧力を妨害できる存在ということも加味されている気がします。投資者側としても政府の意向に左右されないという保証は大きいでしょう。

 事業内容は恒星炉の建設や運営を行い、回収した資源を売買することでしょう。また、恒星炉の発表当初は避けられていた「恒星炉を都市近郊に建設することによる電気の直接送電」も事業に追加されるはずです。

 恒星炉の技術は達也が世界中で普及させるために独占はしていませんが、中核技術である人造レリック「マジストア」は製法が拡散されれば危険なので独占しています。なので、海外に恒星炉を建設する場合はステラ・ジェネレーターに依頼することになるでしょう。

 一応、人造レリックを使わなくとも高レベルの魔法師を部品として消費すれば恒星炉を稼働することは可能なので、魔法師の人権を特に軽視しているイギリスを除くEU諸国はステラ・ジェネレーターに依頼せずに恒星炉を建設するかもしれません。ですが魔法師は少数で、恒星炉を稼働させるレベルとなるとさらに少なくなるので安定とは程遠い発電所となるでしょう。

 特化した調整体を生産するにも金はかかりますし、どちらにしろコストが大きくなるので普通はステラ・ジェネレーターへの依頼一択となるでしょう。

メイジアン・カンパニー専務理事

 メイジアン・カンパニーは、達也が日本で人権自衛の為の具体的な活動を行う為に設立した非営利法人です。メイジアン・ソサエティと縦の関係を持つわけではありませんが、達也がどちらでも代表権を保有しているので色々と連動することが出来ます。なので外部からの扱いはメイジアン・ソサエティの関連組織とされていることでしょう。

 カンパニーは1巻で発足したばかりなので魔法界への貢献はまだ行えていません。基本理念として「魔法師未満を含めたメイジアンがその才能を以って社会で活躍できる道を切り開く」ことです。これは、メイジアンが社会から受けている有形無形の制限の内1つである「職業選択」を念頭に置いています。

 作中の社会では魔法を積極的に生かすことが出来る職業が「軍人」、「警察」、「研究・開発者」が大半で、一般社会で魔法が制限されているのでその他の職は皆無のようです。研究・開発者が少数であることを考えれば、ほぼ軍か警察という暴力的な能力を行使する職業となっています。そのため、暴力に忌避感を持つ者はせっかく持った稀少な才能も生かせないことになります。そこで涙を流す学生も多いようです。

 そのためメイジアン・カンパニーの活動は「メイジアンの非軍事的職業訓練事業」と「非軍事的職業紹介事業」を行うことになっており、現状ではそのための専門学校の設立を行っています。といっても事前に、あと半年程度で開校準備が整うところまで終わらせていたようですが。

 専門学校の名称は「魔法工学技術専門学校(略:魔工院)」とされており、魔法を利用した工業技術を学ぶ場とされています。魔法を工業分野に応用する実利的な技術なので、魔法科高校で学ぶ魔法工学のような実験・研究的な講義とは別のようです。一応、魔法工学も取り扱っているようですが。

 具体例は出されていませんが簡単に予想するならば

  • 食材の組成を変化させ加工食品を製作
  • 機械部品の成型
  • トンネルや橋などのインフラへの負荷軽減、劣化防止
  • 自然環境汚染物質の処理

などがあります。他にも職種の数だけ応用できるでしょう。

 もちろん、ライフラインに属人的な能力である魔法を用いるとなると安定性は求められないはずですが、そこはマジストアを使えば解決です。マジストアはおいそれと世に出すことは出来ない物ですが、魔工院が斡旋する就職先はステラ・ジェネレーターや投資元の達也とずぶずぶの企業ばかりのようなので、ありえそうです。

 そして以上の考えが可能ならば、ソサエティのあるスリランカはメイジアンの国にするようなので、マジストアを使った生活基盤へのメイジアンの適用ができそうです。

 こうやって考えると「生活基盤に魔法が根付いている」などのようなファンタジー世界に転換出来そうですね。

 まとめると以下が現状の司波達也の立場となります。

 全てそれぞれの界隈で大きな意味を持つ立場なので、続編に入ってからも協力し始める勢力があれば敵対し始める勢力出現し、様々な関係を築いていくでしょう。

関係勢力

 達也は影響力のある様々な立場に在るので、いろんな立場で協力と敵対をすることになります。

友好的

 まずは続編に入って新たに協力し始めた、あるいは良好な関係を持った勢力です。

東道青葉

 これは続編に入ってからとは言えないですが、前作終了後に関係性が少し変わったので改めて紹介します。

 東道青葉は「日本政府の黒幕」と称される”元老院”の人間で、その中でもトップとなる”四大老”の内の1人です。研究所時代から四葉のスポンサーなので、東道からの依頼を四葉は熟すことで政府の黒幕側から色々と優遇されているようです。ESCAPES計画への便宜もその1つですね。

 なので、協力というよりも持ちつ持たれつな関係に近いでしょう。思いの外達也の行動に寛容ですから、東道としては「筋さえ通せばそれで良い」といった感じなのでしょうか。四葉への監視員であった葉山さんが絆されていることも関係はあり…?

 東道と達也の関係で目新しいことは、リーナでしょう。

 リーナは前作の時点で日本に帰化することが確定的でしたが、なんとその帰化先が東道の義娘という立ち位置でした。なのでリーナの戸籍上の名前は「東道理奈」に変わっています。また、東道との面会を求める際にリーナに仲立ちして貰っていました。本当に謎である。

 それに、碌に通学できない達也が進学できるように融通の利く教授に口利きしてあげる、といったこともしています。抑止力云々に達也が大学を卒業するか否かは関係ないのでそこまで手を回す意味は無いはずです。

 なので、東道と達也の関係は少し近くなっていそうです。

USNA

 こちらも一応紹介しておきますが、北アメリカ大陸合衆国USNAは前作の終盤で達也個人と同盟を組んだ相手でした。リーナの提供および恒星炉への出資の代わりに恒星炉技術を要求され、また太平洋方面での協力を相互に約束しています。

 この同盟は主にUSNAの国防長官リアム・スペンサーが結んだものなので、USNAが国家的に達也と協力関係になることは無いのですが、どうやら達也という抑止力とのコネは政治上無視できない存在のようで、大統領選が近いスペンサーは達也との関係を政界で広く押しているようです。そのため達也はUSNAでの活動で最大限の便宜を得られます。

 作中ではUSNAの統合参謀本部JCSは自国の不利益にならない限りだとは思いますが、けっこうな使い走り具合でした。

 さらに、忘れがちですが国防長官と同盟を組む前に「ワイアット・カーティス」というバージニア州の上院議員と生涯に渡る協力の約束を結んでいます。”影の中央情報局CIA長官”と囁かれる人物との協力関係により、USNAでの違法行為に触れることであっても自国の不利益さえ被らなければ黙認されるようです。

 それどころか、どちらかは分かりませんが偽装パスポートの提供さえ簡単に行っていたので、なかなかに強力な同盟となっているようです。おそらくはCIAでしょう。

FEHR

 これはまだ正式な協調関係にあるわけではありませんが、3巻で会談を予定しており協調まで秒読みなので一応載せておきます。

 FEHRフェールは「レナ・フェール」を代表とする「魔法師の権利保護」を目的とした政治結社です。「FEHR」は「Fighters for the Evolution of Human Race人類の進化を守る為に戦う者たち」の略称で、過激化した魔法師排斥運動に対抗するために立ち上げられた魔法師の権利保護を掲げた互助組織です。現状では北部で市政府レベルの合法的な発言力を獲得しているようです。

 構成員はレナ・フェールを”教祖”とした過激派集団のため、政府からは潜在的テロリストという認識をされているようです。実際に、構成員は教祖の為ならば非合法活動も辞さない覚悟を持った”信徒”ばかりで、レナが非暴力を掲げる穏健派なため犯罪組織とはなっていないようです。

 レナは頑なに非暴力を貫くため、失望し魔法師排斥運動への過激な抵抗で犯罪を起こす者も多いようで、いろんな意味で孤軍奮闘といった感じの組織となっています。そんな現状から犯罪組織への転落を危惧した達也は、カンパニーに送られた密偵?である遠上遼介をパイプに協力関係を築くために会談のアポを取らせました。

 FEHRとの協力関係はカンパニーの業務とは関係ない為ソサエティの方で結ぶようで、達也からすれば棚ぼたですが、『アグニ・ダウンバースト』の戦略級魔法師であるチャンドラセカールの護衛、アイラ・クリシュナ・シャーストリーを人材交流として派遣するようになったので、関係を結ぶことにそこまで障害はなさそうです。

 唯一の不安要素はレナ・フェールが精神干渉系魔法に偏った適正の魔法師のようで、常時的に発動していると考えられる幸福感を与えることによる魅了の魔法でしょう。現状レナ・フェール自身では止めることが出来ないようなので、精神干渉が会談を不穏にするかもしれません。

 それ以外は相互、というよりもFEHR側に多大な利益があるので不安要素は無いでしょう。リーナも見張りとして影で会談の警護をするようですし。

八代家

 こちらはメイジアン・カンパニーとの協力です。十師族八代家当主の弟である八代隆雷へ魔工院の校長就任を打診し、八代家はそれを受理しました。八代家に依頼した理由はいくつかあるようです。

 まず達也は、日本の政府や軍、魔法協会との関係がめちゃくちゃ悪いです。というのも彼らからすれば、達也は制御しようとすれば実力で黙らせてくる抑えの利かない狂犬で、文句を言おうにも勝手に海外と手を組み世界的な地位を確立するため手を出せなくなっています。もちろん政府の場合は東道との契約がありますし、軍の場合は抑止力と言う意味で根本的に協力関係なので、敷居を荒らさなければトラブルには発展しません。

 とはいえ組織が一枚岩なわけが無いので、平時ではバチバチに仲が悪いです。魔法協会に至っては達也個人だけでなくソサエティの理念が喧嘩を売っている形になるので関係修復は不可能です。そのため、達也の行動はけっこうな妨害を受ける可能性が高いです。

 ステラ・ジェネレーターは大企業や資産家が集まりすぎていて公的機関でも容易に介入出来ませんが、カンパニーは連携するとはいえ別企業なので独自に睨みを効かせる必要があります。そこで都合が良いのが十師族の当主関係者です。

 十師族は各家がそれぞれに政界とコネクションを保有し、日本の魔法師の民間軍事力の象徴のような存在ですから政府も軍も用意に手は出せなくなります。また、魔法協会日本支部と十師族は互いに「日本の魔法師を導く存在」であるという意識が強いので犬猿とはいかないまでも仲が悪いです。魔法競技が半政府組織で十師族は民間組織であることも折り合いが悪い理由でしょう。

 なので十師族ならばけん制には調度良い見せ札になります。

 また多くのメイジアンを呼び込むために魔法界に名の知れた存在であることが望ましいので、十師族の当主関係者であることが理想です。もしも個人としての名を知らなくても、日本の十師族は世界的に有名との話ですから「十師族である」というだけで安心感を与えます。それに生徒として技術スパイが紛れ込んでも圧力を掛けられそうですし。

 また、七草家と四葉家の険悪な関係が日本魔法界で有名なように十師族同士の関係というのはけっこう知られているようなので、贔屓感を出さないために四葉家と七草家とは無関係の家が有力です。

 そのため関係性の浅い八代家が選ばれ、個人として非魔法分野においても学会で世界的に名のある八代隆雷に校長を打診したようです。

 八代家は依頼の対価に二つの要求をしました。一つ目が魔工院の経営についてで、経営に軌道が乗ったら学校法人として独立後に経営に参加する、というものです。まあなかなか面倒な役を与えられるわけですから、これは当然でしょう。ですが二つ目が問題で、達也個人への技術協力でした。

 八代家が達也の手を借りなければならないほど難航している研究は「マイクロブラックホールからエネルギーを取り出す」という”縮退炉”でした。エネルギー産業への参入を目論んだ研究なので、完成し事業として成立すれば達也のステラ・ジェネレーターと競合することになりますが、それは市場の拡大が望めるので問題ではありません。問題なのは「マイクロブラックホールの生成」です。

 マイクロブラックホールの生成は、前作で達也を苦しめまくり新しい魔法理論を発見してやっと直接的な対抗手段を得るほどの難敵であった「パラサイト」の本体を物理次元に呼び込む儀式になります。パラサイトは肉体を持たないので物理次元では存在を保てず、人間に憑依し妖魔へと変異させるので実験の概要が公表されたUSNA政府は大バッシングをくらっていました。

 だからこそ、パラサイトへの対抗手段を持たない八代家はおいそれと縮退炉の実験は出来ません。パラサイトへの直接的な対抗手段を持っている十師族は四葉のみで、他は師補十八家の「九」の三家である九島、九頭見、九鬼ぐらいでしょう。九の各家はパラサイトの兵器利用に成功していましたが、それに関して前科があるので信用はしにくくなります。なので八代家的には縮退炉を研究するために協力を依頼する相手は四葉家、それも世界的に有名な魔法研究者である達也くらいしかいなかったのでしょう。

 達也としては即刻辞めて欲しい研究でしたが、暴走されるより近くで監視した方がマシと考え協力を約束しました。まあ四葉は対処手段も豊富ですし、研究の場所を巳焼島に移せればパラサイトをストックし隷属化できる光宣が直接関わることもできるのでデメリットばかりでも無いでしょう。達也自身「パラサイドールは有用な道具」と称していましたから光宣にパラサイトを操作させるであろうことは確定的ですし。

敵対的

 次は敵対、あるいは険悪気味の勢力の解説です。

日本政府・軍

 前述したように、達也は個人的に日本から色々と顰蹙を買っています。

 政府はディオーネ計画の招集要請時にUSNAとの摩擦を恐れたため、有無を言わずにUSNAへと行って欲しかったところ、達也が日米の要請を無視して自分の計画ESCAPESを強引に初めてしまったのが始まりです。そこから達也の計画への妨害は失敗し、USNA軍相手に国内で勝手にドンパチを始めました。それに加え独自にUSNAの軍基地パールアンドハーミーズを壊滅させ、巳焼島ではドンパチどころか世界に対して宣戦布告までかましました。

 さらにUSNA相手に正面からやり合っておきながら、USNAのVIPと同盟を個人で結ぶという(政府側視点で)勝手では済まない日本に対する裏切りをされています。これは政府だけでなく軍としても、民間組織が勝手に外国軍と戦闘行為を行っているわけですから、自身の管轄を奪われた形なので琴線に触れる出来事です。まあ、一番頭にきているのはUSNAとの折衷案に頭を悩ませていた外務省でしょうが。

 そんな感じで同盟国とはいえ外国と勝手に独自の同盟を結び(同盟を結んでいることを直接的には知らないが、関係が親密なのは分かっている)、国家と同等の軍事力を保有する達也は政府にとって”目の上のたん瘤”です。そのため達也は日本政府と壊滅的に仲が悪いです。

 ですが、その状態で達也はメイジアン・ソサエティを設立しました。それの何が問題なのかというと、日本政府には一切の情報が行ってなかったことです。

 メイジアン・ソサエティの設立式では代表のチャンドラセカール、副代表の司波達也、立ち合い人のマクロードが名を連ねています。ここでIPUは設立に先立ちスリランカを事実上譲渡し、イギリスは第三者国として出席しているので、対外的に見ればチャンドラセカールはIPU政府の代表代理、マクロードはイギリス政府の代表代理という形で国ぐるみの連携を取っています。

 しかし、もう一人である達也は個人であり日本政府は完全に除外されています。これは、ソサエティ側から見れば恒星炉と抑止力が欲しいだけなので達也が居れば十分。達也側から見ればディオーネ計画の時にさんざん恒星炉開発の反対をされている訳ですから、余計な摩擦を避けるために当然の行為です。

 とはいっても日本政府の視点ではUSNAとの唐突な同盟癒着に続く、それも公式で発表した国際同盟です。出し抜かれた感は満載でしょう。それに、そう何度も日本政府を差し置いて各国と同盟を組まれては自分たちの立場も危ぶまれます。

 だからこそ、達也の動きは政府が要警戒として四六時中監視を行っています。それでもソサエティの情報は得られなかった訳ですが。そんな感じで神経質になっているところに、またも唐突に謎の組織であるメイジアン・カンパニーを設立し、3巻ではカンパニーの従業員真由美と遼介をUSNAに派遣するわけです。

 政府側からすれば「もういい加減にしろ」という感じでしょう。妨害は必至です。

FAIR

 FAIRフェアは「Fighters Against Inferior Race劣等種に対して戦う者たち」の略称で、魔法師排斥運動への積極的な抵抗を目的とした団体です。FEHRと似ていますが、決定的な違いとして暴力などの犯罪行為も普通の手段として用いている過激派で、FEHRの理念に失望した者達の行き場となっているようです。

 そのためFEHRとは犬猿の仲で、互いに妨害を繰り返しているようです。ですがFAIRと達也の関わりにFEHRは関係ありません。

 達也の開発した人造レリックは、魔法を兵器利用したい人間達には喉から手が出るほど欲しい存在です。それはFAIRにとっても同じで、非魔法師に対抗するために兵力を蓄えたいFAIRは直接達也の施設へと手を出しました。

 それは結局防がれ、FAIRは手を引きましたが構成員の特徴が琴線に触れたため、達也はFAIRを積極的に叩く研究することにしています。実際に本拠地のある地域サンフランシスコ郊外に光宣と水波を派遣して調査させています。

 なので、FAIR側は達也の標的になっていることを知らないでしょうが、オリジナルのレリックを狙っていることも相まって達也との衝突は不可避です。

樫和主鷹

 樫和主鷹は、東道青葉と同じく”元老院四大老”の内1人である日本の「裏」の権力者です。樫和の配下に数字付きナンバーズ百家「十六夜家」を従えており、そこを通して魔法犯罪組織である「進人類戦線」のスポンサーとなっています。

 元老院もまた一枚岩ではなく東道と樫和は協力関係ではないので、東道も達也も、樫和が犯罪組織を使ってテロ行為を幇助する理由を確かめようとしています。その結果四葉家は十六夜家と敵対行為に発展し、今後の敵対も確実です。これは四葉家としての敵対でしょう。

 まあ樫和からすれば、達也も無理やり黙認させているだけで色々やらかしているので、同じ穴の貉といった感じかもしれませんが。

 まとめると、以下が現状の大まかな勢力関係です。

USNAと日本政府・軍は、あくまで「一部」です。

 FAIRの立ち位置は微妙ですが、まだ四葉家との敵対のみでしょう。将来的にはソサエティとしての敵対にもなるでしょうが。


今後の展開

 最後に、簡単ですが3巻以降の展開について考察していきます。

 前述した通り、達也の今後の動きとして明確なのが「FEHRとの会談」でしょう。魔工院の諸々は、講師陣の顔出しとか設備の描写程度の、本筋にあまり関係ない事のみだと思います。なのでひとまずはFEHR関連がメインでしょう。会談要請のメンバーは遠上と七草先輩、リーナの3人で、バンクーバーへと渡航します。

 遠上はレナ・フェールへの顔繫ぎ、七草先輩は日本当局へのけん制、リーナは会談警護のための選出です。まずは親書を渡すだけとのことなので時間はかからないとのことですが、合間に話を挟むので会談が決定して3巻は終わりでしょう。

 また魔法師は、ただ厳しく制限されているだけでなく政府からも警戒されている中での海外への出張なので、軍とのゴタゴタはあるでしょう。七草家の令嬢を同伴させたといっても完全に抑えることは無理でしょうし。と考えてたところ、3巻の紹介が以下の内容となっていました。

司波達也最強の魔法が再び放たれる!一方、魔法大学には恋の嵐が!?

 FEHRとの提携交渉のためUSNAへ向かう真由美と遼介。優秀な魔法師の海外流出を防ぐために海外渡航が自粛されている中での渡航。自粛を要請している国防軍への挑発行為と受け取った情報部は、国を牛耳る陰の組織、元老院へ助力を求める。

 しかし、国内に残る達也にも策はある。魔法師の自由を確立するため、魔法の存在意義を示すため、達也が持つ最強魔法、マテリアル・バーストが放たれる――。

 一方、魔法大学のキャンパスでは普段と違う空気が流れていた。リーナが渡米しているため深雪の護衛として達也がそばにいることが増える。そのことにやきもきする、とある男女の姿が……。

メイジアン・カンパニー   3 続・魔法 通販|セブンネットショッピング (omni7.jp)

 やっぱり軍は動きますよね。自粛中に無視して外出されたらむかつくでしょうし、対応に出ざる負えないでしょう。色々と問題ばかりの達也関連ならなおさらです。

 とはいっても、まさか元老院がすぐに関わってくるとは思いませんでしが、樫和主鷲を忘れる前にすかさず出してくるのはありがたいですね。まあ実際に出てくるのは2巻で達也に負けた十六夜調でしょう。さすがに進人類戦線は戦力が瓦解しているので出てこないでしょうが、十六夜家の駒はそれだけではないでしょうから新しいモブ敵が出てきそうです。

 とはいってもマテバ案件とは穏やかではありません。というか過激すぎですね。東道閣下から「過ぎた恐怖は毒となる」からあまり使わないように助言されていますが、使用自体は自由にやっていいという契約なので質量爆散マテリアル・バーストを使用することに問題はありません。しかし、責任も全て達也が取ることになるので面倒な事態は避けられません。それでもやるということはそれほどの重要局面ということですが、初手は大事ということでしょうか。

 今まで唯一質量爆散マテリアル・バーストが向けられる可能性が無かった国が日本なので、軍は質量爆散マテリアル・バーストへの考慮していないでしょう。そんな想定外の一撃をどこに撃つのかが難しいところです。国土だと市民からの非難が避けられないので海上、あるいは日本軍所有の衛星あたりでしょうか。さすが警告無しで撃つことは無いでしょう。

 「魔法の存在意義を示すため」に質量爆散マテリアル・バーストを放つというのも難しいですね。たしかに質量爆散マテリアル・バースト]は抑止力としての魔法なので使い方は正しいですが、「魔法の存在意義」となると話は別です。達也はそれを「兵力」から「経済力」に変える活動をしているわけですから。なので考え付くのは”開拓”でしょうか。「質量爆散マテリアル・バーストで更地にした土地を魔工院で教授する技術で開発する」といったような感じで。

 それに元老院への助力といっても戦力自体は軍の方が豊富なはずです。元老院ならば事実の隠蔽や監視システムの記録改ざんとかでしょうか。元老院側としても利益が無ければ手を出しにくいですし。

 劇場版「星を呼ぶ少女」に出てきた「隕石爆弾ミーティアライト・フォール」のような非公認戦略級魔法を軍が隠し持っていて、その隠蔽に元老院の権力が必要というのならありそうです。隕石爆弾ミーティアライト・フォールのような魔法ならば防ぐのに質量爆散マテリアル・バーストを行使するというのはあり得ますし。

 なんにせよ、また日本政府と達也の関係が拗れる事態になりそうです。

 恋云々は何のイベントフラグでしょうか。これが一番分かりません。「男女」は想像付きますが、彼らの嫉妬で何が起こるのか想像も付きません。というか一条君は出番ありすぎですね。同世代で達也の総合戦闘力に唯一追いすがれる男な訳ですから重宝されるのは分かりますが、そっちよりも男優デビューした七宝君を出して欲しいです。別に一条君が嫌いなわけではありませんが、七宝君の方が「魔法師の未来を広げる」という意味で活躍できますし。

 最後にFAIRの空気が薄いのも変ですね。そちらは主に光宣と水波が対応するでしょうが、シャスタ山へとレリック採掘の動きがあって以降の描写がありませんでした。まだシャスタ山に到達していないとするならば、光宣と水波がFAIRの採掘隊と対敵するわけですが、採掘後ならば追跡になるのでしょうか。FAIRには光宣の隠密技能を見破った異能者がいましたし、パラサイトに類似した不穏な存在も描写されていますから、苦戦するかもしれません。基本何でも出来る光宣と、光宣の弱点である柔さを補う水波のコンビなら苦戦しているところを想像しにくいですが。

 FAIRはレリックで手一杯なのでソサエティとFEHRの会談には手を出す余裕が無いでしょうが、色々と現代魔法とは違う特異能力者を多数構成員とした組織なので、こちらも目が離せません。何をするのかが分からない不気味さがありますね。まあ厄介というだけで強敵では無さそうですが。


 以上で今回は終わりです。

 最後まで読んでいただきありがとうございました。


コメント

タイトルとURLをコピーしました