〔追憶編〕アニメ補完知識

ストーリー解説/考察

 魔法科高校の劣等生は2021年の大晦日に、小説8巻にあたる〔追憶編〕がアニメ展開されました。一巻分なので3話しかありませんでしたが、要点となる「達也と深雪の関係性の変化」がしっかり描かれていたと思います。ですが尺の都合上カットされたシーンはありますし、基本的に魔法科はキャラがリアルタイムでの解説役にならないので、アニメ勢には不足感が否めない部分もあったと思います。

 小説では各キャラの思慮や関係性、特徴など、深雪の心の中を描く形で解説が成されていましたが、アニメでだらだらと考えているところを出すわけにもいきません。

 そこで今回は、アニメ勢が説明を必要としているであろうと思った不足点を解説していきます。なるべく3期以降にあたるストーリーのネタバレには配慮しますが、時系列的に最新であるアニメ2期〔来訪者編〕も視聴済みであることを前提に話を進めていきますので、注意してください。

 またストーリーの大筋には関わらない細かい設定、アニメでは触れられることがなさそうなサイドストーリーなども解説することもありますので、そういったことも嫌な方はブラウザをバックして頂けると幸いです。


新キャラクター

 まずは追憶編で初登場の新キャラクターについて解説していきます。

四葉深夜

アニメ魔法科高校の劣等生 追憶編より引用

 アニメ1期の九校戦編で名前がとビジュアルが軽く登場していた達也と深雪の実母です。

 四葉家現当主である四葉真夜は双子の妹で、差異は泣きぼくろと髪型、眼の色程度とほとんど同じビジュアルとなっています。それも泣きぼくろは正中線から線対称と、違いが非常に分かりにくい。ちなみに、左の泣きぼくろは真夜で、右の泣きぼくろが深夜です。

 ですが魔法特性は全く別です。四葉家(第四研)の魔法師は元々「再現難度の高いユニークな魔法」、「精神干渉系魔法」のどちらか、あるいはその両方の適性を持ちやすいという特徴があり、真夜の操る「夜」は 「再現難度の高いユニークな魔法」 に当たります。ですが深夜は両方となり、その魔法は「精神構造干渉」と称されています。

精神構造干渉

 文字通り「精神の構造に干渉する魔法」です。精神は不明瞭なので説明が難しいですが、作中で明かされている精神構造は以下になります。

 精神には「外界から受信した情報を自動で最適な形に加工する生体機能の一部」である無意識領域と、「無意識領域が加工した情報を意図的に操作する」意識領域が存在し、無意識の上に意識が積み重なっています。

 また、意識と無意識の境界は「ルート」と呼び、そこから情報体次元イデアへの接続口である「ゲート」が存在しています。これらは魔法の通り道で、魔法演算領域で構築された魔法式は「ルート」へと転送され、「ゲート」を通って情報体次元イデアへと投射されます。

 精神構造干渉は上記の大まかな構造への干渉だけでなく、意識領域内の細かな分類を1つの構造として認識し、内容を改変することが出来ます。代表例が達也に行ったような「人造魔法師実験」でしょう。

 意識領域内にある「衝動」を司る領域を白紙化→魔法演算領域として改ざんを行い、人工的に魔法師を作りました。これを「記憶」や「人格」に対象を変更すれば、都合の良い戦力が簡単に手に入ります。

 とはいかず、より時間が経ち、より強固な認識であるほど改変難度が上がるので、施術は人格/記憶が朧げな幼児くらいにしか多用できません。また、達也生来の魔法演算領域の欠陥を解消していないことから、無意識領域は認識できず、標準が届かないということが分かります。

 この魔法は深夜が作中で唯一の使い手となっており、達也には「情報体エイドスへの構造干渉」、深雪には「精神凍結魔法」という形で受け継がれています。

 深夜はこの負担の大きい魔法を使い過ぎた為肉体的に病弱になっており、そのため当主は真夜に引き継がれました。物語のスタート時に深夜が居ないのは、追憶編でのゴタゴタが体に響いて数年後死亡したためです。なぜ身体を壊すほどに魔法を使い続けたのかは、アニメでは詳しく語られないであろうサイドストーリーにあるので、また後程解説します。

桜井穂波

アニメ魔法科高校の劣等生 追憶編より引用

 四葉家が内部で製造している魔法遺伝子調整体「桜」シリーズの第二世代であり、来訪者編のラストで先行登場した桜井水波の遺伝子上の叔母になります。魔法適正は「単一障壁」の魔法に振られており、作中ではいくつもの艦砲を受け止めていました。

 深夜のガーディアンであり、「護衛」を学ぶために一時期はSPの仕事をしていたこともある、ハイスペック家政婦です。性格は明るく、「立場を弁える」ことを達也使用人深雪主人に常々諭していた深夜が自身のガーディアンである穂波には心を開いてしまう、という冷静に考えれば情けない状態になってしまうほどです。

 「障壁魔法を操る傍仕え」という模範的なガーディアンで、「攻撃される前に殲滅する」タイプのガーディアンである達也とは対照的です。

 家族のように思っていた深雪だけでなく、基本的に他人向ける感情を持たない達也にも少なからず影響を与えている人物で、なんと穂波の死に対し後悔を覚えるほどです。「深雪を傷つけた敵を迎撃する選択を取ったこと」、「敵の殲滅に穂波の力を借りなければならないほど弱かったこと」、と言う感じで「穂波が死んだこと」自体ではなく自分への叱責が主な後悔を占めていますが、苦みを感じるほどに大きな存在だったわけです。

 四葉内で珍しく達也をぞんざいに扱っていなかったことだけでなく、戦闘能力的に防御が極端に薄い達也は防御能力が高い穂波と相性が良かったのもあるかもしれません。

 因みに、死因は「魔法演算領域のオーバーヒート」です。これは魔法演算領域という演算機構がショートした時の不具合が、他の処理機能に伝播し次第に肉体の機能すら動作しなくなると考えればいいでしょう。魔法師ならば魔法の過剰行使により誰でもなりうる症状ですが、調整体は発症後の死亡率が異常に高いとされています。発症=死亡といっても過言ではないほどです。

  「魔法演算領域のオーバーヒート」 は魔法科高校の劣等生における物語が終盤に進むほど重要になってくるので、ぜひ覚えておいてください。

取り残された血統〈レフト・ブラッド〉

アニメ魔法科高校の劣等生 追憶編より引用

 序盤で唐突に絡んできた在日米国軍人、ではなくその子供たちです。アニメでは説明されていないでしょうが、作中では2045~65年までの二十年間に第三次世界大戦〈世界群発戦争〉が発生していました。

 追憶編は2092年なので終戦から30年弱が経過しており、沖縄の米軍はハワイ基地へと引き上げていますが、その米国軍人の子供たちの内親が戦死している子は取り残されてしまいました。

 取り残された血統レフト・ブラッドとはそういった経緯から呼ばれている蔑称です。子供たちは国防軍に引き取られ日本という故郷の為に戦っていますが、血統や見た目による差別は付き物。現地の人からは避けられ、軍からは相対的に冷遇されています。

 そんな差別的環境により献身も報われず、彼らも歪んで素行が悪くなってしまったわけです。まあ、通りすがりの中学生に突っかかるのは客観的に見てやばいですが。

 一応、達也が関わっていた「樋笠ジョセフ」は魔法師であり稀少なので、彼らの中では優遇されている部類のようです。

黒羽貢

アニメ魔法科高校の劣等生 追憶編より引用

 四葉家にある6家ある分家の内1家である黒羽家の現当主、黒羽貢です。黒羽家は四葉内でも過労気味の部隊で、主に「諜報・暗殺」の仕事を担っています。

 なので暗闘が得意な四葉家内で、仕事の比重が偏るのも仕方ありません。ちなみに、真夜・深夜と貢の血縁関係を一部載せておきます。

 また、深雪と同じく次期当主候補である黒羽文也と、その補佐である双子の姉の亜夜子を子に持っています。四葉内の詳しい家系図はこちらのwikiで知ることが出来ます。

 黒羽家は主に精神干渉系魔法に限らず、「認識阻害/隠密系」の魔法に適正があるものが多くいます。

 貢は精神干渉系魔法の認識阻害系の魔法を得意としているようで、作中では「周公瑾の隠密を破ることが出来る」とされるほどです。また、貢が編み出した魔法も存在し、オリジナル魔法「毒蜂」は四葉の精神干渉系魔法に適正のある暗殺者に圧倒的なシェアをされているようです。

 「毒蜂」は精神干渉系魔法で、「針を刺した対象に生じた痛みを、ショック死するまで増幅させる」魔法です。死亡するまで数秒の誤差があり、その間に対抗魔法を行使されれば無効化されますし、達也のように痛みに耐性があるものは誤差が長くなります。ですが、少ない事象干渉規模で、凶器は針という小物なので、精神干渉系魔法に少しでも適正があれば使える簡便さ。なによりショック死なので手段が特定されにくいというメリットがあります。

 ちなみに、「毒蜂」は〔来訪者編〕のバレンタインデー直前に使用したシーンがあるのですが、アニメではカットされています。そこか唯一の出番だったはずなので、今後は「毒蜂」の出番は無いでしょう。

補足点

 以下からは、アニメを観ていて不足感のある点や、アニメだけでは知り得ない点を捕捉として解説を入れていきます。

深雪が達也の力を知らない?

 おそらく、アニメ勢の方々が最も不思議に思っているのがこの点でしょう。これは「達也の能力が四葉内部における情報規制対象」だからです。

達也の情報規制

 達也の情報規制は大まかに2段階あります。まず一般的な個人情報。以下が、アニメ開始時点で一般の外部に公開されているであろう情報です。

  • 家族構成は「父、自分、妹」、実母とは死別。父は会社員で、後妻の家に入り浸っているため妹と二人暮らし。
  • 協調性、共感性に欠けるが学力・運動能力は高い。

 これは深雪も同様で、追憶編での違いは「母(深夜)が存命である」という点と「住まいは四葉本家」という点でしょう。ちなみに、当時はまだトーラス・シルバーの出世作「ループキャスト」は世に出ていないので、おそらくはまだトーラス・シルバーを名乗っていないでしょう。もしかしたら、開発室への出入りもしていないかもしれません。

 次が四葉内部での情報規制です。規制されている対象は主に「使用人」と「達也世代以降の子供」で、中枢に近い人間のみが知る資格を持ちます。規制内容は以下です。

  • 分解魔法
  • 再生魔法
  • 精霊の眼エレメンタル・サイト

 つまり、「戦闘から遠い人間」ほど達也が生来保有している魔法の才能を知らないということになります。なので、そういった人たちの達也への評価は「四葉嫡流でありながら魔法の才能が無い者」、「親の情けで人造魔法師計画を施された似非魔法師」、「親の情けでガーディアンの地位を与えられた出来損ない」ということになります。

 覚えのあるセリフではありませんか?一部は九校戦編で次の人が言っていたセリフです。

 この人は四葉家の使用人代表内1人、財務担当となる”執事序列第4位”の「青木さん」です。下の名前は知らん。

 青木さんは主に外部での活動となり、戦闘面とは遠いところにいるので、序列は高いながらも達也に関する情報は開示されていません。なので青木さんは四葉内部の雑多使用人が達也にする評価を代表しています。

アニメ魔法科高校の劣等生
第9話「九校戦編II」より引用

 まあ、さらに規制されているのが次の、父「司波達郎」なのですが。

 達郎は四葉側として種馬の価値以外は無いので、人造魔法師計画のことすら知りません。なので、達也が感情を失っていることも知りません。

 完全に外部の人間扱いで、本家に立ち入る権利すらないそうです。つまり、いつでも切り捨てられる立場ということです。

アニメ魔法科高校の劣等生
第9話「九校戦編II」より引用

 まあ達郎さんは対価として、四葉が運営しているFLTの”本部長”および最大株主の地位を譲渡されているので、WinWinではあります。

 なので、達也の力を知っているのは四葉内部でも達也と任務を共にすることがあるような荒事担当者、本家や各分家の当主周辺の人間、執事序列第1~3位の使用人取り締まり三人程度です。深雪は最有力の次期当主候補ですが、この時期は荒事よりも淑女(次期当主)としての教育が主なので達也の能力を知りません。

 達也自身も6年間深雪のガーディアンとして傍に使えていましたが、「深雪が余計なことを知る必要は無い」と考えて知られないようにしていたようです。まあ達也の場合「深雪への悪意的行動」が発生した瞬間、精霊の眼エレメンタル・サイトで発生源を特定し即座に分解で消滅させるので、隠す以前の問題なのですが。

 深雪が達也の情報規制対象に入っていた理由は色々とあるのですが、そのあたりはネタバレになるので控えます。アニメ4期~5期辺りが来たら明かされるでしょう。

達也と風間少佐達の関係

 今回の〔追憶編〕で、風間少佐たち独立魔装大隊と達也のファーストコンタクトが成されました。つまり、達也はこれから特務兵として従軍するわけですが、彼らとの関係は軍のみではありません。

例えば

 風間は、自身の師匠である九重八雲に達也を紹介します。つまり八雲は、直接的な四葉の関係者ではないということです。とはいっても、〔追憶編〕における達也の格闘シーンから何となく察した人もいるかもしれません。〔追憶編〕の達也には〔入学編〕以降の流麗で滑らかな動きがありませんから。

 真田は、達也に軍のCAD等の高度機器を提供し、それによって得られた物を軍に還元しています。因みに、〔追憶編〕で達也が持っていた二丁のCADは軍の施設を見学した際に、軍のCADに興味を持った達也へ真田が提供した試験品です。達也はそれを数日で実践用にカスタマイズしたようです。これもCADの色で「シルバーホーン」ではないと気づいた人はいるでしょう。右のシーンがカスタマイズしている様子です。

アニメ魔法科高校の劣等生 追憶編より引用

封印解除方法の違い

 〔横浜騒乱編〕、〔追憶編〕共に大亜連合の侵攻が行われ、どちらも達也の「質量爆散マテリアル・バースト」により大打撃を受け終戦となりました。そしてどちらも緊急事態であったため、大亜連合軍侵攻時に達也に施された封印を解いています。

 ですが、この封印解除方法が違いました。深夜は視認するだけで封印を解除しているにもかかわらず、深雪は額へのキスにより封印を解除しています(〔来訪者編〕で達也が自発的に行った場合も同様)。

アニメ魔法科高校の劣等生 追憶編より引用
アニメ魔法科高校の劣等生
第24話「横浜騒乱編VI」より引用

 この違いにちょっとした疑問を抱いた方がいるかもしれません。

 結論から言うと、分かりません。

 というのも、文庫版の小説では〔追憶編〕時点で達也に封印が施されている描写も、封印が解除された描写も無いからです。そもそも”誓約オース“自体が〔追憶編〕以後に造られた魔法で、これは「誓約オース」による”封印の主目的”を明かされれば分かることです。このあたりは物語に直接関わることではないとので解説してしまいます。

誓約〈オース〉について

 まず”誓約オース“とは「特定の能動的な意思決定を禁止する」精神干渉系魔法です。簡単に言ってしまえば、強制的に”自制”させる魔法です。あくまで封印とは「魔法力の制限」ではなく「行動制限」ということになります。

 また魔法の仕組みは「効果を永続させる」場合と「一時的な封印解除を可能にする」場合の2パターンあり、以下のようになっています。

 どちらも”誓約オース“を行使した施術者は、封印の内容を設定するだけでその後は特に関わりはありません。これは1人で多数の封印を自立させるための仕組みで、維持する力を自己負担させることで効果が永続し、第三者に”誓約オース“の負担をさせることで制御権を与えています。「特定の行動を制限する」という狭い改変内容のため成立する魔法なのでしょう。

 達也は後者で、封印内容は「”質量爆散マテリアル・バースト“の行使」です。”質量爆散マテリアル・バースト“は威力が高すぎるため、暴走を危険視した四葉家上層部が封印を決定しました。

 勘の良い人なら既に気付いているかもしれません。そう、「〔追憶編〕まで”質量爆散マテリアル・バースト“を行使したことも無いのに、”質量爆散マテリアル・バースト“の禁止を強制している」のです。

 これでは存在していない魔法に対して制限を掛けているようなものです。魔法の仕組み上”存在しないこと/もの”を対象に設定した場合、定義不成立で魔法は失敗します。なのに封印は掛かっているのです。

 なら封印の内容は「魔法力の制限」ではないのか、と思う方もいるかもしれませんが、「達也の魔法力を制限している」のは深雪に施された”誓約オース“です。これは”誓約オース“で”質量爆散マテリアル・バースト“を禁止しただけでは不十分だったために行われたことで、達也に”質量爆散マテリアル・バースト“を禁止させるとともに「”深雪”の魔法制御力を使って、達也の魔法演算領域を縛る」という記述が加えられています。

 そのため、深雪は魔法力を負担するだけで”魔法制御力”が半減し、少しの癇癪で周囲を凍結させてしまうようになったわけです。つまり、深雪が負担していなければ”誓約オース“は成立しません。

 ここで「なら負担を”深夜”がしているのでは?」と思った人はいるでしょう。劇中では深夜が封印を解除しているのですから、そう思うのも当然ですね。ですが、それはおかしいのです。

 なぜなら、深夜が存命でいる限り達也に封印を施す必要がないためです。これは”誓約オース“に限ったものではありません。深夜はわざわざ事前に封印を施す必要も無く魔法を封印することが出来ます。

 精神構造干渉の解説を振り返ってもらえれば分かるのですが、魔法は精神と情報体次元イデアの経路である「ゲート」を通過します。そのため魔法演算領域を縛らなくても、必要な時に「ゲート」と閉じれば魔法を封印することが出来ます。

 また先ほどの焼き直しですが、「魔法力の封印」も状況的に違和感があります。なぜなら、達也はまだ未熟だからです。例を挙げるならば最後の”質量爆散マテリアル・バースト“行使のシーンです。あのとき、達也は”質量爆散マテリアル・バースト“を発動することに魔法制御力を使い過ぎて、防御を穂波に頼っていました。ですが横浜騒乱編以降では”質量爆散マテリアル・バースト“の発動方法が変わり、設置型分解魔法を習得しているため防御の手が足りています。

 つまり、深雪のガーディアンとして未熟であるにも関わらず能力を制限する理由は無いはずです。実際、深雪は一度ハチの巣にされて死にかけていますし。あの瞬間、達也が”他者への再成の行使”を習得しなければ深雪は死亡していました。

 以上の理由から、達也に施された封印は「製作陣のミス」と考えました。が、それではあまりにも心が無いので、ファン目線で考えます。

〔追憶編〕に封印が追加された理由

 製作陣が「原作の設定を破ってまで封印の描写を追加したのか」を考えた結果、「アニメ勢には封印が馴染みにくいから、覚えてもらう為に出番を多くした」のだと予想します。

 これは【魔法科高校の劣等生】全般の魔法に言えることですが、基本的に解説が無ければ「何の魔法なのか」が分かりにくいものばかりです。それでも作中で重要な魔法でなければ流せるでしょう。しかし達也に施された封印は「主人公達也の行動」を縛る枷なので、比較的重要な魔法です。

 なのに達也に施された封印は「魔法陣が身体に描かれている」、「思考を妨害する要素痛みなどがある」、あるいは「明確な弱体化描写がある」わけでもありません。つまり、めちゃくちゃ分かりにくく、めちゃくちゃ印象が薄いんです。主人公達也ヒロイン深雪を弱体化させているにも関わらず。

 だからこそ、「達也が明確に力足らずだった」この時に封印解除の描写を差し込むことで、

「”封印解いた”達也が後れを取った」→「”封印状態でも”無双する入学後の達也強すんぎ」

の図式を作り、封印の重要性を強調したかったのかもしれません。まあ勝手な予想ですが…。

なぜ真夜は「敵は手段を選ばない」と断定した?

 軍施設に避難すると決めた際、真夜が「手段を選ばないのは、よく知っているでしょう」と深夜に対して言っていました。盛大な匂わせですが、文庫版〔追憶編〕を読んでいる人はこの発言の意味をよく分かっています。

 これは〔追憶編〕の巻末に掲載されていたものに由来しており、おそらくそのストーリーはアニメ化されることはほぼ無いでしょう。というのも、p.263~p.287のたったp.24のサイドストーリーだからです。

 今回のアニメで匂わせ以外に語られなかった以上〔夏休み編+α〕、〔プラズマリーナ〕とともにアニメの目を摘まれているのではないでしょうか。

アニメ魔法科高校の劣等生 追憶編

 …もしかしたら〔四葉継承編〕で1話分程度の尺を差し込まれるかもしれませんが。

 ともかく、今後のアニメネタバレにはならないと考え以下で解説しますが、”四葉の悪名”や”深夜と真夜の過去と現状”、”ガーディアンの創設理由”などなど、四葉家の現状に関わる重要な情報が盛りだくさんです。なので「それならアニメでやるだろう、待ってるからな…!」、「文庫版を買う予定があるから、自分で読むのを楽しみにしておく」という方は、ここでブラウザを閉じてください。

〔アンタッチャブル―西暦2062年の悪夢―〕について

 これは作中の時系列で2062年、日本魔法界、主に四葉家が受けた被害から始まった悪夢のお話です。

 「アンタッチャブル」とは四葉家を指しており、これは「触れてはならない者達アンタッチャブル」を表しています。「隠しておきたい黒歴史廚二病」ではなく、「安易に触れたら周囲諸共滅ぼされるぞ」という「いつ、どこで、どうやったら起爆するのか分からない核爆弾」に対する世界中の認識です。さすがに一般人となると魔法界とは隔離が激しすぎて認知されていませんが、それは主に政府関係者に近いほど共有されている認識で、それに引っ張られて魔法界でも「なんかよく分からんが恐いやつら」的な認識をされています。

 ようは”恐怖の象徴”的な扱いをされ、畏怖されているわけです。現状のアニメでは四葉家のそういった面を垣間見れるのは、〔来訪者編〕のエリカが達也に詰問したシーンくらいでしょうから、とりあえず「四葉家はやばい」と覚えておけばいいでしょう。

 そして畏怖の発祥がこの〔西暦2062年の悪夢〕になります。

 始まりは台北で行われていた”国際魔法協会アジア支部主催少年少女魔法師交流会”での事件。当時第三次世界大戦こと”世界群発戦争”真っ只中のアジアは不安定だったようで、出席した魔法師(軍事力予備軍)の少年少女たちが攫われてしまいました。そこには日本魔法界代表としてか当時十二歳の”四葉真夜”も出席しており、同様に誘拐されてしまいました。

 優れた魔法師は即戦力的な軍事力だけでなく、魔法の研究材料として優れているということで、それを攫うことは他国の軍事力を下げ自国の軍事力を上げることに直結します。つまり、その誘拐は非公認の国家的な犯罪だったわけです。それが作中の”大亜細亜連合(略:大亜連合)”に吸収された”大漢”で、その軍事力の中枢を担っていた”崑崙方院”という研究機関が誘拐を行いました。

 さらに作中には、「魔法師は優れているほど何故か左右対称の身体を持つ美人になる」という設定があり、優秀だった真夜も例にもれず人攫いを犯すようなモラル皆無の研究者達ロリコンどもはそんな女麗しい少女を性的な道具としても利用しました。遺伝子(受精卵)を回収できれば次代の軍事力に出来るので余計にです。

 つまり真夜は、強姦すら生易しい性玩具としての仕打ちを受けた訳です。それを四葉家が救出する3日後まで行われた結果、生殖機能は失われ、一切の反応を示さない精神疾患PTSDを患いました。真夜が結婚していない理由は生殖能力が無いから、ということです。また、そんな状態から真夜の精神を救う手段はありません。ですが掬い上げる手段はありました。それが深夜の”精神構造干渉”です。

 前述したように、意識領域には”記憶領域”が存在し、記憶には”経験記憶”や”知識記憶”、”意味記憶”など様々です。その中で”実感”に結び付く”経験記憶”を”知識記憶”に改変し、感情の伴う経験を映像で蓄える知識にすり替えようとしました。そうすれば、思い出しても映画を観ているような感覚になるので、性玩具にされたという記憶が真夜を蝕むことはありません。

 ですがここで問題点が発生しました。さすがの深夜も中学一年生なので、そこまで細かい指定操作は不可能です。そのため当時四葉家当主であった父”四葉元造”は、全ての記憶を対象にすることを決めました。それにより真夜は”過去”を”知識”に変えられ、実質的にそれまでの四葉真夜を形成していた精神は死亡しました。

 深夜はその罪悪感により、学生時代から”精神構造干渉”を過剰に行使した研究を行いました。その結果深夜のキャラ紹介で述べたように、深夜は若くして身体を壊し〔追憶編〕後数年で死亡しました。深夜のCVが真夜と違うのは、そういったことを製作陣が考慮した結果かもしれません。

 真夜を救出した四葉家はすぐさま一族総出で”大漢”への復讐を決行します。当主含め四葉家における戦闘魔法師の半数である30人程度で国家を相手取ることを決意した無謀。当然ながらその結果、投入した魔法師は全員死亡し四葉家の戦力は半減しました。

 この真夜に襲った悲劇を繰り返さないために、四葉家は新しい役職を創設します。それが”守護者ガーディアン“です。”守護者ガーディアン“は特に才能の優れた一族の子供〈次期当主候補〉専属の護衛として、生涯を掛け命を尽くして庇護対象を護ることを使命とします。そのため、達也には深雪の”守護者ガーディアン“の任から離れる権利はありませんし、”守護者ガーディアン“は肉壁としての生涯を決められています。

こうして”四葉の罪”は生まれたのです。

四葉の悲劇に救いあれ。

世界の全てに呪いあれ。

 これが四葉家側に降りかかった悲劇犠牲です。そして以下が”大漢”側に降りかかった悲劇因果応報になります。

 なんと四葉の実動員は、”精神干渉系魔法”を駆使し積極的に暗躍を続け、政府関係者や魔法研究者、軍事上層部を自爆まがいの暗殺で殺戮していきます。それにより”大漢”は政府機能がマヒし内部崩壊、その隙に”大亜連合”に吸収され”大漢”という国家は消滅しました。また”世界群発戦争”がアジア発祥だったこともあり、アジアの平定へ準ずるように2065年に20年続いた”世界群発戦争”は終戦となります。

 つまり四葉家は、一民間組織であるにも関わらず国家崩壊を成してしまったのです。そのため、大漢崩壊の真実を知ることが出来る政府関係者の上層部ほど、四葉家を「触れてはならない者達アンタッチャブル」と呼んで畏怖しています。

 〔来訪者編〕で北アメリカ大陸合衆国USNA軍のバランス大佐が気圧されていたのは、そういった背景があるからです。

アニメ魔法科高校の劣等生 来訪者編
episode08「来訪者編Ⅷ」より引用

 で、話を〔追憶編〕に戻すと、この時沖縄に侵攻していたのが大亜連合軍になります。大亜連合は大漢を吸収しているので、「幼気な少女を平気で嬲る奴らが含まれているぞ」という意味で、真夜は「手段を選ばない敵」と断じたわけです。


 以上が、私的に不足感のあった箇所の補足です。「敵が大亜連合軍だという言及すら無くなったのはさすがにミスなのでは?」と邪推してしまうほどに、細かい変化が多かった気がします。最初の深雪が散歩から帰った後、アニメ版では「兄が守ってくれましたから」と言っていますが、文庫版で深雪は達也を認めていないので言葉にすることが出来ていませんでしたし。

 さすがに穂波さんの死亡理由が分からなくなりそうなのはかわいそうです。

 あと〔追憶編〕には関係ありませんが、作中では大亜連合の沖縄侵攻に追随して正体不明新ソ連軍の佐渡侵攻が発生しています。そしてその侵攻防衛戦で活躍したのが”クリムゾンプリンス血染めの貴公子“こと一条将輝です。

アニメ魔法科高校の劣等生
第14話「九校戦編VII」より引用

 最後までお付き合いいただきありがとうございました。

 何か不足点、不満点、間違いがあったら、コメントで指摘して頂ければ幸いです。


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