メイジアン・カンパニー4巻まとめ/解説

ストーリー解説/考察

 【続・魔法科高校の劣等生 メイジアン・カンパニー】は、魔法資質保有者メイジアンの人権問題に対して具体的な解決策を模索していく物語でした。直前の第3巻では、メイジアンが実質的に制限されている「移動の自由」を解決する為の策を巡らせる、という内容でした。そちらは以下で解説しているので、復習がてら読んでいただけると幸いです。

 最後には、FEHRの代表である「レナ・フェール」と司波達也が急遽会談を行う状況となり終わりました。そのため、第4巻ではその続きからと言いたいところですが、第3巻では序盤から終盤までの主人公とは別サイドで展開されたUSNAでの話が抜けています。

 なので、第4巻の序盤はUSNAの話からとなっています。探り合いを続けていたFEHRと達也が手を組むんで何かしらの事態に対処することは第3巻の終盤にて分かっていたので、どのような動きをするのか注目でした。

 今回は、【続・魔法科高校の劣等生 メイジアン・カンパニー】第4巻のストーリーの整理をしながら、解説を行っていきます。

 全面的なネタバレに当るので、復習がてらに読んでいただけると幸いです。また、内容のまとめはほんとうにまとめただけなので、その次に飛ばしていただいても支障はありません。


内容まとめ

シャスタ山

 FAIRは、レリックかそれに類する物が存在すると考えられているシャスタ山に採掘隊を派遣し、採掘(国家保有の資産を盗掘)を開始します。それに危機感を抱いたFEHRの代表「レナ・フェール」は、FAIRを潰すために連邦政府への犯罪証拠提出案を採用し、採掘隊の監視を始めました。

 そして、監視するのがFEHRが依頼した私設探偵「ルカ・フェールズ(小野遥)」です。小野遥は認識阻害に類するBS魔法師であり、諜報員でありながら「ミズ・ファントム」という恥ずかしい異名があるほどです。これは、達也クラスの索敵能力が無ければ存在を捕捉できず、諜報能力は作中で最高峰となっています。

 小野遥は、FAIRの副代表である魔女「ローラ・シモン」が指揮する採掘隊の犯行現場を記録しましたが、FAIRを重犯罪で検挙できるほどの証拠を得られなかった為に捜査は継続です。

 因みに、以下がFAIRとFEHRについての大雑把な情報です。

日本からの使者

 第3巻にて「メイジアンの渡航制限」を緩和させるために利用された”メイジアン・ソサエティ”の使者である七草真由美と、その護衛である渡辺摩利、そしてFEHRとの顔繫ぎである遠上遼輔がFEHRの本拠地であるバンクーバーに到着しました(6/24)。

 早速出迎えに来たレナに、真由美が「ソサエティの連携交渉のテーブルに着くかどうか」の伝言をしてファーストコンタクトは終了です。その後、レナは相談役である「シャーロット・ギャグノン」と共に小野遥の調査結果を見て、調査続行を決めました。その後の調査には、第3巻の序盤で盗掘隊の調査時にローラ・シモンの反撃を受けて負傷していた、FEHRのサブリーダー「ルイ・ルー」が同行するようです。

 場所は移ってワシントンです。影から真由美を護衛するように依頼されているリーナが軍基地に到着し、スターズのソフィア・スピカ少尉、ラルフ・ハーディ・ミルファク大尉と共にバンクーバーへ飛びます。

 リーナとスピカの二人で観光中の真由美・摩利・遼介の三人組を護衛。そこに大統領選絡みの別件で真由美たちがFBIに眼を着けられ、リーナ達は手がいっぱいになります。

 ちなみに、この時に新らたに「テンタクルス(アラーム)」という魔法が登場しました。

陰謀

 FBIの非合法活動部隊はひっそりとリーナ達に撃退され、真由美たちはそれに気づくことも無く再度FEHRとの会談となりました。「ソサエティとの連携」についてのFEHR側からの返答は「了承」で、FAIRという懸念事項の確認もありましたがそれも特に障害ではなく、成立の方向に舵を切ることになりました。

 その後、会食を挟み再度FBIによる襲撃が発生しましたが、それも本人たちの自衛とリーナ達の影からの援護もあり撃退。その際、リーナとソフィアは影ながら魔法を使いましたが、レナはそれぞれ魔法の使用者が違うことに気付いていました。この時の遼介の言及により、レナの魔法力がスターズ(USNA軍の精鋭)に匹敵するレベルである可能性が高くなりました。

 元々レナは、縁のある人物の下にしか飛べないとはいえ太平洋を越えて魔法を行使できることから、高いレベルの魔法師である可能性はありました。さらに後半の活躍を含めれば、レナの魔法力がスターズレベルであるのはほぼ確定でしょう。

 その後、バンクーバーでの魔法使用制限状況の背景や襲撃してきたFBIの非合法工作員の素性について言及されていましたが、カットします。

二枚の石板

 シャスタ山でレリックの盗掘を行っていたFAIRは、ついにレリックにあたる石板を得たようです。黒と白の石板があり、黒は一枚、白は複数枚あるとのこと。ローラ・シモンは魔女の直感で黒が本命だと解ったようです。

 とはいえ現地での詳細な解析は魔女術では出来ないようで、本拠地に戻って本格的な解析を行うために回収します。ここで、監視していたルイ・ルーと小野遥は別行動。ルイが石板の奪取を目的に単独で襲撃を行い、小野遥はレナへの結果報告と盗掘証拠の持ち帰りとなります。

 報告によりルイの無茶を知ったレナは、遼介を招集し臨時で雇った軽飛行機でシャスタ山まで送ります。その際、遼介はレナより非常時用の飛行デバイスを預かっており、着地の手間を省くために使っています。また、遼介は学生時代の修行により自然物の”気”を感じ取れることが明かされています。約50m以内の”生命の気配”を感知可能で、さらに半分以内ならば身内かどうかを判別できるようです。

 妨害を行ったルイは取り巻きの持っていた白の石板を奪取出来ましたが、ローラ・シモンが持っていた本命は手を出せなかったようです。また、その際に手傷を負ったようですが、身を隠すことには成功しているようです。

 レナが仲間の場所ならば物理的距離を無視して把握できるので、レナの導きもあって遼介はルイと合流します。ですが、ローラ・シモンの魔女術により捕捉された二人はFAIRの部隊と戦闘になります。

 ここで、FAIRの構成員についての描写がありました。

FAIRの構成員

 要約すると、百名前後の構成員の内6割程度が魔法資質保有者であり、さらにその内3割(全体の2割)がローラ・シモンの魔女術により実践レベルへと強化されているようです。

 強化された多数の兵士が遼介とルイを囲みます。その際に、遼介はローラ・シモンの魔法兆候から魔法力を感覚的に逆算しており、「七草真由美と同程度」と評価しています。つまり、ローラ・シモンは高い確率で十師族レベルの魔法師ということになります。

 2人はローラ・シモンの魔法を前に手詰まりとなりますが、そこにレナが加勢します。バンクーバーから2人の縁を辿ってアストラル・プロダクションを行使し出現。レナは「ユーフォリア」を発動してFAIRの兵士の動きを止めていました。

 アストラル・プロダクションで100km離れた場所へ幽体を飛ばし、十人の魔法師を無力化させながら十師族クラスの精神干渉系魔法?を妨害する。これでも限界には程遠いとのことですから、レナの精神干渉系魔法の適性は四葉家に匹敵、あるいは凌駕するかもしれません。

帰還/帰国

 どうにかこうにか本拠地のバンクーバーに帰還した遼介とルイの2人は、奪取した白い石板を提出します。対して黒い石板を回収したローラ・シモンも本拠地に戻り、ロッキー・ディーンに提出しました。

 黒い銅板は”魔導書”であり、魔女の間で「導師グルの石板」と呼ばれているようです。「手にした者に強力な秘術を授ける」とされており、石板に記録された魔法を魔法師に与えます。今回の石板に記録されていた魔法は後述する「バベルの塔の神罰」で、オークランドにて猛威を振るいました。

 また、白い石板は後に、想子サイオンを流すことで模様を発生させる「地図」だということが分かりました。ローラ・シモンは、透視により白い石板が十枚以上あることを感知しており、早速盗掘に戻るようです。

 その後、バンクーバーに滞在していた真由美たちソサエティの使者は帰国です(7/2)。遼介は、レナからの指令で達也本人との面談のアポイントを頼み、やっと第3巻の最後の場面に繋がります。

 また、真由美たちの護衛をしていたリーナも仕事が終わることになるので、後を追って帰国します。

アメリカからの依頼

 魔工院の理事室にて達也は、遼介の傍に出現したアストラル体のレナとの面談を行いました(7/5)。レナはシャスタ山でのFAIRに関する情報を達也に提供し、「FAIRの抑止のための早急な助力」とそれに伴う「渡米」を達也に懇願します。

 達也もまたレリックへ知的好奇心と危険性を抱いており、同時に精神干渉系魔法に高い適正のあるレナの”予感”を無視できず、懇願を了承しました。(精神干渉系魔法に適正のある魔法師は、予知に似た直感を持つ者がいる。代表例が四葉深夜)

 達也は既にUSNAにコネを持っており、技術提供を理由に強引に渡米することは出来ます。しかし、達也が脅威なのも事実なので、渡米までのUSNA側の準備に時間がかかります。ですが、7/9にはFAIRによる被害は既に発生しており、USNA側から招かれることになります。

 達也は、レナからの依頼で渡米する準備をしていたのもあり、その場で承諾します。

 因みに、準備とは後述する新魔法「アイドネウス」の開発であり、「鬼門遁甲」をベースにした魔法となっています。余計な摩擦を減らすために自身への注目を逸らす必要があったようで、四葉分家の津久葉家で開発が凍結されかけていた魔法を急ピッチで完成させました。「あと一息の調整」といった段階まで開発されていたためか、たった二日で完成までこぎ着けられたようです。

 被害は「失語症の感染」で、オークランドを発生源として市外に広がっている状況です(現地7/1に発生確認)。異物として検出される有毒ガスやウイルスは検知されず原因不明なため、オークランドは封鎖されておりパニック寸前となっています。そのため、政府はそれを魔法によるテロリズムと判断し、達也に対し助力を願いました。

 ちなみに、「魔法によるテロ」を民衆に悟られてしまうと反魔法師主義運動が加速してしまいます。そうなると不利益を被るのが、全地球圏を射程範囲とする戦略級魔法師である達也と親交があり、それによって大統領選の当選が確実と目されている現与党「リアム・スペンサー」国防長官です。そのため、政府はこの混乱に報道規制を掛けています。

渡米

 達也は渡米を了承しますが、先述したように行動を警戒されている為何も問題なく「すぐに」とはいきません。今回の場合、達也には日本政府のみならず新ソ連や大亜連合の諜報員が付いているので、引っ付けたまま渡米すればUSNAは他国にオークランドでの被害を悟られてしまいます。

 USNA政府は他国に弱味を握らせるわけにはいかないので、「早急に、かつ隠密に」という点でUSNA政府と達也の利害は一致しています。そのため、渡米を知られないようにする工夫が必要でした。

 その工夫とは、簡単に言えば「婚前の北海道旅行に偽装した渡米」です。日本の”対新ソ連における最前線”である北海道に行くことで監視者の警戒を最大限煽り、警戒度MAXの監視者に深雪との甘い旅行を見せつけることで肩透かしをさせる。という緩急をつけることで監視を最小限に抑え、さらにリーナの仕上げで監視に悟られず渡米します。

 現地入り(7/12)した達也は大統領着き秘書官である「ジェフリー・ジェームズ(JJ)」に案内されたホテルに停泊後、スターズの主任科学者である「アビゲイル・ステューアット」、スターズ1等星級の「アリアナ・リー・シャウラ」中尉と共に原因究明に臨みます。

神罰魔法

 情報共有により、達也もまた「魔法による被害」だと確信し、その翌日には患者の分析を行います。精霊の眼エレメンタル・サイトにより「バベル」の魔法式を発見した達也は、深雪に選択式領域干渉を行わせた状態で術式解散グラム・ディスパージョンを使い、バベルを破壊し患者を回復させました。

 ちなみに、選択的領域干渉を使う理由は「手の内を隠す」ためです。患者を保護している施設は国家的に見ても魔法観測技術が発達していると言われているUSNAの施設ですから、術式解散グラム・ディスパージョンを暴かれるかもしれません。そのため、選択的領域干渉を使わせました。

 ここで行った魔法は達也、深雪双方にとって特に負担は無いものなので、時間の許す限り患者を診ていきます。それにより、達也は三日でオークランド市内の患者を快復させたようです。

 そうなると効果の確認の為に経過を確認していたFAIRにも気付かれます。患者の収容所に張り込ませていたスパイからバベルの魔法式が破壊されていることを報告され、精神干渉系魔法に適正のあるシャウラ少尉が同行しているという情報までは突き止めます。

 それに腹を立てた術者は単独行動に走り、達也へと接触します。後述するアイドネウスを使用していた為にバベルを破壊していたのが達也だということに気付かず、突き止めて即座に達也に対しバベルを使った術者は術式解散グラム・ディスパージョンで無力化されてすぐに深雪の「アイシィソーン」で眠らされました。

 その際、アイシィソーンは睡眠の強制なので被術者は(魔法演算領域を含む)無意識ごと強制的に停止させられます。魔法演算領域が停止するとバベルの術者に寄生した使い魔が宿主を「死亡」と判断するので、使い魔は石板に戻ります。ちょうど、第2巻で光宣が燃やしたFAIRの構成員から出てきた想子サイオン情報体と同様の現象です。

 依頼が終わった達也は、JJに「シャスタ山調査」の許可を貰います。これは政府に監視されたくないためで、シャスタ山の案内はレナへの報告も兼ねて小野遥を紹介してもらいます。

新たな標的

 達也は、シャスタ山の調査前に秘密裡に導師の石板の回収を行います。回収は光宣に頼み、光宣はFAIRの本部に襲撃を掛けて石板を奪いました。ですがその直前に、ロッキー・ディーンは人造レリック強奪作戦を再開しようとしており、ローラ・シモンがバベルを使って実動をしようとしていたので、使い魔は既に石板から抜け出した後でした。ちなみに、この際光宣はちゃっかりと白い石板の模様を写真で記録していたようです。

 またUSNA政府は、捕らえられたバベルの術者からFAIRに重犯罪が適用できるだけの証言を確保できたため、術者の先走りを止められなかったFAIRは政府の取り締まりによって壊滅します。ですが、ロッキー・ディーンとローラ・シモンのみは逃げ遂せたようです。

 ところ変わって達也は、小野遥の案内でシャスタ山に行きます。FAIRが盗掘を行っていた場所に着いた達也は精霊の眼エレメンタル・サイトで周囲をスキャンすることで、FAIRが回収しなかった遺物を回収します。この遺物は、想子サイオンを込めることで特定の地点に向かってずれることから、設定された地点を示す「コンパス」であることが予想されています。

 ちょうど白い石板が地図になっていることから、地図に掛かれている文字を解析してコンパスを使うことで大まかな場所の特定に成功しています。その場所が「シャンバラ」です。

 そのため、次巻からはシャンバラを探す冒険譚になるそうです。

現状整理

FAIR

 まず、目の上のたん瘤であった敵対組織FAIRが壊滅しました。これは予想外でしたが、大きく動き過ぎた代償でしょう。

 FAIRが犯罪結社にも関わらずこれまで検挙されなかったのは、直接的な証拠を残さない上手さがあったのは事実でしょうが、最も貢献していたのは注目を集めるほど大きな動きを取らなかったからです。直接的な破壊力は無いにしろ、社会に無視できない打撃を与えるという点で戦略級に迫るレベルの魔法を乱発したわけですから、達也が出張らなくとも壊滅させられるのは時間の問題だったでしょう。

 ですが、代表であったロッキー・ディーンと副代表であったローラ・シモンは逃れています。今回魔法力的な脅威度が描写されたローラ・シモンもそうですが、カリスマ性という意味で不穏さが描写されたロッキー・ディーンも脅威です。

 達也はそれを知らないのでローラ・シモンを警戒していましたが、ローラ・シモンのような依存症な質は自身を使ってくれる頭が居なければ脅威にはなりません。それを考えれば、異端者を勧誘してきたロッキー・ディーンは水面下でも手足を増やしてFAIRのような組織を作るでしょうから、ロッキー・ディーンを始末出来なかったのは後々響いてくるのでしょう。

 4章「二枚の石板」の冒頭では、「アメリカ西海岸での大混乱」が起こると描写されていました。実際にオークランド近郊でバベル騒動が発生し混乱が発生しましたが、達也が出張った影響で小規模にまとめられています。個人的に大混乱と称するには弱いと思うので、ロッキー・ディーンは西海岸でさらに何かしらの大事件を起こすのでしょう。

 とはいっても、さすがに組織を再編するにも二人だけなので、あと1,2巻は登場しなさそうです。

FEHR

 次に、FEHRとソサエティの本格的な提携の準備が終わりました。続編開始当初から、ソサエティ・カンパニー設立に付随して登場した組織なのですぐに協力関係になることは分かっていましたが、FEHRの敵対組織であるFAIRが潰れたタイミングとなりました。イベントを重ねたくなかったのかもしれませんね。

 FEHR側はFAIRとの闘争で再確認できた「影響力の欠如」を改善出来ますし、ソサエティ側は潜在的な同志を失わずに取り込むことが出来ます。両者の利害は一致していましたから、こちらも時間の問題でした。ソサエティとの会談で達也を呼んだのは遼介をカンパニーに送り込んだ理由にある「達也には影響力があり過ぎる」ことと同じでしょう。ソサエティを成立させているのは達也の軍事力と技術力のよるものですから、協力する前に自分の眼で直接見極めたいと思うのは当然です。

 また、FEHRは目下の敵対組織であったFAIRが潰れたことで余裕があるはずです。そこに、遼介が連絡手段として達也の下に残り、提携後はチャンドラセカール博士の護衛であった戦略級魔法師「アイラ・クリシュナ・シャーストリー」がFEHRに移動します。こうなるとソサエティ側はFEHRに何かしらをやらせるかもしれません。

 今巻ではちょうど、FEHRの本拠地であるバンクーバーの魔法師事情について描写されていますし、そのあたりの制限緩和のために積極的な行動を取らせると考えます。また、近くのシアトルには小野遥がいますし、諜報関係でこき使えそうです。

USNA

 今回はUSNA政府と達也の関係が多く描写されていました。もともと達也を潰したい派閥と利用したい派閥に分かれていたUSNA政府は、達也が正攻法で潰せないと分かったことで利用(取り込み)派閥が大勢を握りました。そして達也との同盟後は、達也が日本政府の影響が薄い巳焼島に居ることを利用して、頻繁に交流していたようです。

 「司波達也」というカードが政治的威厳にとても有効なことから、国防長官付秘書官のJJは気軽に巳焼島へ来訪していたとのこと。スペンサー国防長官は大統領選を控えており、達也を背後にちらつかせることで当選確実の状態になっているようです。また、達也に否定的な勢力はいるようですがそれらは主にスペンサーの政敵で、理由も「スペンサーと引き離したい」という感じでに直接的な排除は望んでいません。

 達也が渡米する際も、既に「技術協力」という大義名分があるので時間はかかれど障害にはならないようです。今回のシャスタ山調査時でも、レリックが存在していた場所の調査にもかかわらず、監視の目が一切無いという状態でした。その直前に達也がバベル騒動を治めたとはいえ、任義的な貸し借りを重要視しないアメリカ相手に「国内での単独行動の許可」を譲らせたことから、USNA政府が達也に対して慎重なだということが分かります。

 これは互いに、争っても共倒れになるだけだという事が分かっているからでしょう。達也は深雪の生活さえ平穏になれば良く、USNA政府は達也に好き勝手をされても最終的に自国へ還元されれば良いと考えているはずです。そのため、達也とUSNAの一部勢力が敵対するという未来は無さそうです。

カンパニー

 今回、達也たちはFAIRを壊滅させるついでにバベルの石板(抜け殻)とシャンバラへの地図を手に入れました。ロッキー・ディーンとローラ・シモンが生存し、魔女術により襲撃者である光宣を追跡できる可能性があるので、まだまだ敵対は続くのでしょう。

 とは言ったものの、追うべき光宣は主に宇宙を拠点としているので追えず、達也は石板を解析することで二人がバベルを保有していることを察するはずなので、二人と敵対する時には対策が終わっていそうな気がします。少なくともバベルの魔法式は視ているので、バベル用の対抗策は作りそうです。個人的に、バベルを場合の回復手段は確立してUSNAに提供しそうな気はします。

次巻以降について

 FAIR対策は置いておいて、当面はシャンバラ探索です。地図とコンパスが揃っているので探しに行くことが分かり、巻末のあとがきに佐藤先生が「次巻以降はシャンバラ探索が大きな柱になる」と明記しています。

 とはいえ【メイジアン・カンパニー】では、メイジアンの旗印である「メイジアン・ソサエティ」とメイジアンに才能を活かす職業を与える「メイジアン・カンパニー」の活動がメインだったので、そちらを放り投げるわけにはいきません。なので、シャンバラ探索はフリーの光宣隠密/探知水波防御のコンビがメインで行い、片手間で「高千穂」を経由して達也たちが参加することになるでしょう。

 また、達也たちは国内でも多分にやらかしているので、元老院関係も怪しくなっていました。変に刺激を与えなければ特に何も無いでしょうが、既にソサエティとFEHRの提携が決まっており、国内でも何かしらの反応があるかもしれません。これ以上日本でぐだぐだやっても足を引っ張るだけで物語の進行が遅くなりそうなので、日本政府が関わってくる可能性は少ないでしょうが何かしらのいざこざはあるでしょう。

 これで、現状の整理は終わりです。

新魔法解説

 ここからは、第4巻で新登場の魔法を解説します。

テンタクルス

 特定座標に設置する防諜用の魔法です。作中では「遠隔・同特性のサイコメトリと呼ぶべき無系統魔法」とされており、設置した想子サイオン情報体の”陣”に侵入者が触れると陣と侵入者の想子サイオンの干渉で、侵入者の想子サイオン体外皮の情報を術者に伝えるという魔法です。

 侵入者の感知だけでなく想子サイオンパターン(生体情報)まで識別可能なので、侵入者か否かといった判断まで可能な高度な魔法です。さらに、オペレーターのソフィア・スピカは睡眠中も発動可能なので、長時間発動が持続する常駐型魔法なのでしょう。

 「陣を敷く」とされているので、刻印魔法や精霊魔法(喚起魔法)のような「独自に魔法演算回路を持つ魔法発動待機状態の機構に想子サイオンを注ぎ、魔法を発動する」魔法なのでしょう。想子サイオン体外皮の情報を得るだけの魔法であり干渉に必要な量の想子サイオンは低いと考えられるので、「遠隔発動可能な常駐型刻印魔法」と言えるかもしれません。

 スターズ1等星級であるソフィアの力量ありきでしょうが、本来多量の想子サイオンが必要で常駐型魔法に向かない刻印魔法を常駐化させ、さらに遠隔発動可能、複数設置可能というおまけ付き。「陣を敷く」ことに時間がかかるとしてもリターンの多い魔法です。

魔女術〈ウィッチクラフト〉

 作中では索敵にも使われた魔女術ですが、古式魔法に分類されています。作用へ干渉する現代魔法とは違って現象や固有概念へ干渉する古式魔法ですが、魔女術は”人間”という現象への干渉を行い改変するようです。

 そのため人間の強化が可能となり、今回は「狼憑きウルフヘジン」が登場しています。

 狼憑きウルフヘジンは肉体の出力制限を強制解除する魔法で、肉体が生来持っている運動能力を引き出します。当然ながら、肉体の出力制限はケガを負わないようにするために行われている脳の制御です。それを取り払うわけですから、肉体は重大なケガ(腱の断裂等)を負います。

 狼憑きウルフヘジンの他にも人間を強化する術があるようで、身体能力だけでなく魔法技能の強化を行う術もありそうです。これは、第2巻で光宣が倒したFAIRの構成員から抜け出したパラサイトに似た性質の想子サイオン情報体と関係があると考えられます。

 もしかしたら、魔女術で魔法発動補助用に人造精霊を創り上げることができるのかもしれません。材料(代償)は高くつきそうですが。

ユーフォリア

 ユーフォリアは精神干渉系魔法で、精神に多幸感を与えて酩酊状態をもたらす霊子プシオン波を想子サイオン波に乗せて放つ魔法です。対象範囲は最大半径約90m、対象人数は最大で約30人となっています。中条あずさが使う「梓弓」に似た魔法です。

 レナは、”フラットな認識状態で対峙している人間”ならば「無意識に撒き散らす波動」で自身へ心酔させてしまうほど精神干渉系魔法に対して高い適正を持っています。そのレナが魔法を行使したため作中では高い効果を発揮していますが、普通の魔法師が使う場合は同様の効果は発揮できないと考えられます。

選択的領域干渉

 領域干渉とは、対抗魔法の一種です。指定した領域内を”事象改変を伴わない事象干渉力”で満たすことで、他の魔法の事象干渉を妨害する魔法です。そして選択的領域干渉とは、領域干渉の魔法妨害を限定させたものです。

 領域内を自身の事象干渉力で満たすということは、自身の魔法以外を妨害するということです。その性質があるため、「特定の魔法師の魔法」を自身の魔法と誤認することで魔法の妨害を限定します。また、妨害されていない魔法は領域干渉の内側で発動されるので、魔法の観測機器には領域干渉のみ観測されます。つまり、魔法の隠匿効果もあるということです。

 ですが、この技術を成立させるには「他人の魔法を自身の魔法と誤認する」という無意識の制御が必要になります。”無意識の制御”が困難であるため、無意識で「自身と同一視できる人間」のみしか対象に出来ません。具体的に言えば、家族や恋人、夫婦などの親密な人間に限られます。

 作中では、深雪が達也の魔法を自身の魔法と誤認することで、達也の魔法のみを有効化させる選択的領域干渉を行使しました。事象干渉力の正体を突き止めた達也が居たからこそ、この技術を確立できたのだと考えられます。

バベルの塔の神罰

 黒い石板「導師グルの石板」に記録されていた魔法です。

導師〈グル〉の石板

 魔法師に魔法を宿らせる聖遺物レリックです。石板内に宿っている想子情報体デーモンが魔法構築の為のサブ回路となっており、それを使い魔として魔法師の魔法演算領域に寄生されることで、記録されている魔法を行使できるようになります。

 ですが、使い魔を特定の魔法構築用補助回路とするため、その分だけ魔法演算領域が圧迫されて通常時の魔法力が低下します。当然ながら、魔法師の才能によっては魔法演算領域を全て占有する場合もありますし、もしも魔法演算領域の容量が足りない場合は情報量の過多によって発狂死してしまいます。

 そのため、「人に魔法を授ける」のではなく「才能のある魔法師の魔法力を相当分犠牲にして特定の魔法を与える」というものになります。

 同様の例を挙げると、達也の分解/再成魔法があります。この二つは達也の魔法演算領域の全てを占有するした分解/再成魔法構築用の補助回路となっているため、魔法演算領域内では大まかな作用を発揮する魔法式が既に組み上がっています。あとは少し手を加えて変数を入力するだけで、実験室レベルの魔法を自在に操ることが出来ます。

 そして、今作中で石板に宿っていたのが「バベルの塔の神罰(略称:バベル)」構築補助用の使い魔です。バベルの効果は言語能力の攪乱で、対象にウェルニッケ失語(失語症)と同様の状態にします。失語症とはウェルニッケ失語症のことで、言語によるコミュニケーションが困難になる病気です。

 バベルの場合は魔法による失語症なので、被害者は音声、文字に問わず言語が理解出来なくなっています。しかし、それ以外の精神機能に異常は無いので言語以外(絵やモーション)でのコミュニケーションは出来るようです。

 また、ただ効果を発揮するだけでなく魔法式がウイルスのような性質を持っています。脳に付与された魔法式は対象の無意識領域に干渉して自身の複製を作成させ、完成した複製を散布させて二次感染を引き起こします。

 魔法式が魔法式を構築させるという仕組みはいくつかあるでしょう。例えば達也が開発した「ループキャスト」は、投射する前の魔法式を魔法演算領域内で同様の起動式を複製します。また「トゥマーン・ボンバ」に使われている「チェイン・キャスト」は、投射された情報体エイドス上で魔法式が類似の魔法式が作成されます。

 どちらも複製を強制させるので、複製数は使用者の魔法力に依存します。それはバベルも同様で、複製の数は術者の精度により変化します。そのため、作中では二次感染は5、6人に留まっています。

 また、この複製工程は魔法師以外にも適用されます。非魔法師に魔法を強制させると負担が大きくなり、高度な魔法になると最悪死亡してしまいます。そうなるとウイルスによる魔法式の散布は果たされない(死亡すると魔法演算領域が機能しなくなり、バベルが複製出来なくなる)ので、複製されたバベルには複製を作成させる工程が排除されているようです。おそらくは、魔法式を簡素にするために原本の工程にある複製数も制限している可能性があります。

 魔法式に未知の文法が使われているため、達也であっても研究には年単位時間がかかると予想されるようです。(模倣は別)

アイドネウス

 アイドネウスは、周公瑾を含む大亜連合の魔法師が使っていた「鬼門遁甲」をベースに開発された魔法です。鬼門遁甲は精神干渉系魔法の一種で、意識誘導の魔法です。意識を向ける上での分岐点で、特定の方向へ意識を向ける/向けないようにします。

 これが、アイドネウスの場合は意識誘導ではなく”認識誤認”に変わります。具体的な効果は「”相貌失認(失顔症)”を発生させる」というもので、自身を視る人が自身のことを「どこにでもいそうな普通の知らない人(モブ)」と認識します。

 「自身に向けられた視線」を標準のトリガーにすることで「自信を視た人間」に魔法の効果が発生するので、術者は自身に魔法を掛けるだけで済みます。そのため、実質的な魔法の適用人数に制限は無く、その影響力にも関わらず領域魔法ではないという簡便さが利点となります。

 対して欠点は、「録画や写真には効果が無い」というものです。これは、「向けられている視線」を対象にしているためでしょう。現在進行形で向けられているならば情報的に繋がっているので標準のトリガーに出来ますが、録画や写真だと「先の未来で向けられる視線」であるため効果が無いと考えられます。とはいっても鬼門遁甲のように、リアルタイムならば映像越しにも発動できるので、直接監視を掻い潜るには持ってこいです。

 作中ではレリックにアイドネウスを登録し、そのレリックを持っているだけで魔法が適用されるという便利な運用をしていました。


 今回は以上で終わりです。予想以上に嵩張ってしまって読みづらいかもしれませんが、最後までお読みいただきありがとうございました。

 誤字脱字等の間違い、ご意見等あったらコメントでご指摘お願いします。


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