国家公認戦略級魔法

能力解説/考察

 魔法科高校の劣等生において魔法は国家にとって有用な兵器として重宝されており、その中でも格別に強力な魔法を”戦略級魔法”と呼称します。文字通り「戦略核ミサイルに匹敵する」魔法であり、単身で戦況を一変させます。

 ”灼熱のハロウィン”において魔法兵器が質量兵器を上回ると決定付けられたため、魔法の危険性を非魔法師の一般市民マジョリティに植え付けることになりました。一方で通常兵力に依存しない魔法兵器は、軍事的な経済規模の小さい国が大国に飲み込まれることを抑止することで、国家間の戦力バランスを保つ役目を担っています。

 その代表例が主人公の司波達也であり、国家公認戦略級魔法師の”十三使徒”の存在になります。

 今回は十三使徒の国家公認戦略級魔法の内、作中で詳細が明かされている魔法を解説、あるいは考察していきたいと思います。ちなみに「ヘビィ・メタル・バースト」は以下の記事で解説しているので省きます。

 最後までお付き合い頂ければ幸いです。


国家公認戦略級魔法師〈使徒〉

 まず十三使徒についての簡単な概要について解説します。

 魔法は属人的な力といえど、主流である現代魔法は高度な科学技術の一部です。当然ながら軍事的に開発できる魔法も予算に縛られるため、戦略級魔法となるといくつもあるわけではありません。

 また、魔法の設計図である起動式が完成したとしても要求される魔法技能を満たした魔法師が存在しなければ、戦略級魔法として日の目を浴びることはありません。リーナの「ヘビィ・メタル・バースト」がその代表例でしょう。(といっても先に起動式が完成しているなどというケースは稀なようですが)

 なので、十三使徒という名の通り13人の戦略級魔法師が居るだけで、13の戦略級魔法が公表されているというわけではありません。同盟国家間で戦略級魔法を提供したり、共有したりと術式は使いまわされています。

 また、作中に戦死や亡命などで入れ替わりが発生して13人では無くなれば、「十二使徒」になったり「十四使徒」になったりします。あくまで、国家公認戦略級魔法師を「使徒」と呼んでいるだけのようです。

 作中で公開されている使徒は以下のようになっています。

  • USNA
    • アンジー・シリウス:「ヘビィ・メタル・バースト」
      • 部下の反乱をきっかけに日本へ事実上の亡命。建前上は「司波達也の監視」であるため、別名で軍籍が用意されてる。
    • エリオット・ミラー:「リヴァイアサン」
    • ローラン・バルト:「リヴァイアサン」
  • 新ソビエト連邦
    • イーゴリ・アンドレイビッチ・ベゾブラゾフ:「トゥマーン・ボンバ」
      • 前作終盤で死亡。新ソ連政府は死亡を否定。
    • レオニード・コンドラチェンコ:「シムリャー・アールミア」
  • 大亜細亜連合
    • 劉雲徳:「霹靂塔」
      • 前作序盤で死亡後、中盤に孫娘の劉麗蕾へ代替わり。劉麗蕾は終盤に処刑宣告を受け秘密裡に日本へ亡命。
  • インド・ペルシア連邦
    • パラット・チャンドラ・カーン:「アグニ・ダウンバースト」
  • 日本
    • 五輪澪:「深淵アビズ
    • 一条将輝:「海爆オーシャン・ブラスト
      • 前作終盤に使徒就任。
  • ブラジル
    • ミゲル・ディアス:「シンクロライナー・フュージョン」
      • 術式はUSNAからの供与。
  • イギリス
    • ウィリアム・マクロード:「オゾン・サークル」
  • ドイツ
    • カーラ・シュミット:「オゾン・サークル」
      • オゾン・サークルはオゾンホール対策として分裂前のEUで原型となる魔法を開発。その後イギリスがオゾン・サークルを開発し、EU協定により旧EU諸国へ公開した魔法式を利用。
  • トルコ
    • アリ・シャーヒーン:「バハムート」
      • 魔法式は日米で共同開発したものであり、日本主導での供与。
  • タイ
    • ソム・チャイ・ブンナーク:「アグニ・ダウンバースト」
      • 魔法式はインド・ペルシア連邦からの供与。

 まあ世界大戦の影響で開発が活発になったわけですから、同盟関係が魔法式の運用に影響を与えるのは当然でしょうね。日米同盟で研究されえていた「物体の形状に干渉する魔法理論」は、個体形状干渉のバハムートと流体形状干渉の深淵アビスを開発していますし、オゾンホール被害が大きいオーストラリアが加盟していたEU連合の当主国であったイギリスはオゾン・サークルを開発しています。

 非戦略級魔法師を国家の秘密戦力として保有しているはずなので、戦略級魔法師は13人以上存在していますが、抑止力として公開されていた戦力は以上です。それらを公の場ではけん制として、世間にばれない裏では積極的に運用しながらバランスを保ってきました。

解説

 世界中の軍事バランスが硬直している中、作中初めて公の戦争で使用された戦略級魔法は、非公認戦略級魔法師である司波達也の”質量爆散マテリアル・バースト“でした。それにより戦略級魔法を使用する心理的ハードルが下がり、前作の中盤から終盤にかけて戦略・戦術級魔法が投入されまくることになります。

 その影響もあり、現状までの作中で詳細が描写された国家公認の戦略級魔法は八つです。「ヘビィ・メタル・バースト」を除けば7つです。なんと作中で未だ明かされていないのが三つだけ。それも二つは「深淵アビス」に共通点のある「リヴァイアサン」と「バハムート」なので、まったく情報の無い戦略級魔法は新ソ連の 「シムリャー・アールミア」 のみです。

 なので、それらを除く七つの戦略級魔法を解説していきます。

トゥマーン・ボンバ

 新ソ連の科学者、ベゾブラゾフの戦略級魔法である「トゥマーン・ボンバ」は魔法のプロセスが唯一不明とされていたようです。しかし、魔法式を直接視認することが出来る達也との戦闘により詳細が明かされ、魔法の基幹システム「チェイン・キャスト(達也命名)」を後述する「海爆オーシャン・ブラスト」に流用されることとなります。

 ”イグナイター点火装置“の異名通り「酸水素ガスの結合による”水蒸気爆発”」を攻撃として用いており、主なプロセスは以下になります。

  1. 振動系魔法:水を霧状に砕く振動工程
  2. 発散系魔法:霧を水蒸気に気化させる発散工程
  3. 吸収系魔法:水蒸気から酸素と水素に分解する反吸収工程
  4. 吸収系魔法:酸素と水素を結合させる吸収工程
    • 魔法の系統は全て予想です。

 1で材料である水を広範囲にばら撒き、2で燃料源となる水蒸気を生成します。3で水蒸気を分解することで、燃料である酸素と水素を生成し、4で酸素と水素を再結合させることでガスを燃焼させ、衝撃波を発生させます。

 酸水素ガスの燃焼は、酸素と水素の組成比を1:2に近づけるほど発火温度が高くなり、理論上2800°Cまで上昇するほどの熱量で、実際の工事で溶接の燃料としても使われます。発火点は570°Cなので着火には相当の熱が必要ですが、魔法で強制的に反応させているので熱は必要ありません。組成比もまた、わざわざ水を気化させて空気中を水蒸気のみにしてから酸素と水素に分解しているので1:2になります。

 また、この魔法を戦略級足らしめているシステムが「チェイン・キャスト」です。端的に言えば”魔法式の増殖”で、トゥマーン・ボンバの魔法式を増殖することで爆発半径攻撃規模を増大しているわけですが、これの恐ろしさは発動速度にあります。

 チェイン・キャストにより魔法式が増殖し、公認の戦略級魔法として随一の攻撃範囲へと広がるのですが、増殖から着火までの速度は掛け値なしの「一瞬」です。それを全て妨害あるいは防御しようにも後出しでは”超能力”に匹敵する速度が必要とされ、達也の分解でさえ不意打ちでの妨害はギリギリです。

 それに、トゥマーン・ボンバは領域魔法ではありません。人を覆う程度の魔法式の多重展開であり、ほぼ個体を対象とした魔法式です。そのため魔法を完全に防ぐには、増殖した千を超える魔法式の全てを個別に妨害するか、魔法式の存在する半径数百メートルに着火を防ぐ1つの領域魔法を展開しなければなりません。領域への妨害ならば深雪や達也クラスの魔法師ならば不可能ではありませんが、個別は誰にも不可能です。

 つまりトゥマーン・ボンバを防ぐには、魔法処理速度と演算規模で国家公認戦略級魔法師であるベゾブラゾフの上を行かなければならないのです。もちろん、作中の達也の場合は増殖前に原本の魔法式を消去することで防いでいましたが、これは術式解散グラム・ディスパージョンを使える達也のみにしか出来ない方法です。

 防ぐことが出来なかった場合はジ・エンドです。作中では「単層の魔法障壁ならば十文字家の”鉄壁”に匹敵する」とされていた桜井水波は辛うじて衝撃波を魔法障壁で防いでいましたが、その結果”魔法演算領域のオーバーヒート”で死にかけました。達也が応急措置をしなければその場で死んでいたでしょう。

 弱点として、材料となる水が攻撃範囲と同規模で必要なので「環境に左右される」点と、発動のための専用CADを戦術シミュレータなどの大型機械と同期させなければならないので「移動が不便」という点があります。しかし、前者は雨の日や海上、雲中ならば発動できますし、後者は列車型CADとすることで長距離移動に適応しています。

霹靂塔

 大亜連合の将校である劉雲徳、および劉麗蕾が使用していたこの魔法は、簡単に言えば「雷を連続的に落とす」魔法です。しかし戦略級魔法に認定されていますが、直接的な攻撃力は低いようです。雷と言う攻撃的なイメージとは違うようですね。

 作中解説では「目標エリア上空で電子雪崩を引き起こす魔法」と「目標エリアの電気抵抗を断続的かつ不均等に引き下げる魔法」の二つで構成されているとのことです。前者が雷に必要な電気量を確保し、後者が対象を絶縁破壊が起こる電気抵抗値にする電気を流すためのプロセスとされています。なので全体の魔法プロセスは以下の内容でしょう。

  1. 放出系魔法:気体分子から電子を取り出し、空気中に自由電子を増やす放出工程
  2. 放出系魔法:対象を帯電させる空気への放出工程
  3. 移動系魔法:上空で貯めた電子を落とす下方への移動工程
  4. 加速系魔法:対象の電圧を引き上げる加速工程

 1は電子雪崩を引き起こすだけなので電子の単純に放出量を高くすればいいでしょう。2は絶縁破壊を起こすためにはまず帯電させなければならないので、対象周囲の空気への放出系魔法。3は落雷を発生。4は絶縁破壊を引き起こす電圧を満たすための電子への加速工程。と言った予想です。

 絶縁破壊を引き起こす工程をどこに置くか迷いましたが、手数を重視した魔法なので初手は準備のための一撃で、本命は第二波以降と考察しました。また、対象が電子機器のある施設ならば機器の電子を用いて絶縁破壊を引き起こせばいいので、プロセス2は必要ありません。

 正直言って合っている自信はありませんが…。

 プロセスはさておき、この魔法が”戦略級”と認定されている理由はインフラ破壊にあります。というのも、電子機器は絶縁破壊が起こるということは「回線がショートした」=「機械が壊れた」という事です。そのため霹靂塔を使用すれば、機械兵器や通信機関、医療機関など都市部の機能をほとんど奪うことが出来ます。

 これにより、「都市を一撃で壊滅させる魔法」という条件を満たし、戦略級認定を受けています。

アグニ・ダウンバースト

 インド・ペルシア連邦(IPU)の魔法研究者でありメイジアン・ソサエティの代表であるアーシャ・チャンドラセカール博士が開発した魔法です。IPUのパラット・チャンドラ・カーンとタイのソム・チャイ・ブンナークをオペレーターとする戦術級魔法で、二つの国家が国家公認戦略級魔法として使用しています。作中で使用されたことはありませんが、【メイジアン・カンパニー】2巻で概要の説明がされていました。

 高温高圧の空気塊を地表に叩きつける魔法です。作中の「対流圏と成層圏の境界付近に断熱圧縮によって大規模・高密度な空気塊を作り出し、高密度状態を維持したまま落下・加速させる」という説明から以下の魔法プロセスを予想しました。

  1. 収束系魔法:指定領域内の空気を高密度に圧縮する収束工程
  2. 加速系魔法:落下する空気塊を加速させる加速工程

 1は断熱圧縮のための収束工程で、2は比重差で落下を始める空気塊を加速させて威力を上昇させる加速工程の2工程を考えました。

 断熱圧縮自体は、空気が薄く熱を伝播しにくい対流圏と成層圏の境界地点ならば空気を圧縮するだけで行えるでしょう。断熱圧縮を行うことで、地球に落下する隕石や衛星のように超高温に加熱されるので振動系魔法は必要ありません。また、加速工程は落下する空気塊と大気の摩擦を大きくするのと、地表に叩きつける衝撃を大きくするためです。断熱圧縮による熱と摩擦熱を加えられた空気塊は、叩きつけられた衝撃で高温化した空気を周囲へまき散らします。

 標準を対流圏と成層圏の境界付近にする理由は、断熱圧縮が容易な点と天候に左右されない点があるでしょう。成層圏にはオゾン層があり、熱を伝播しやすいので断熱圧縮が難しくなります。また標準を行う地点は航空機が飛ぶ高度に近く、雲の上なので空気塊の作成に天候に左右されません。とはいっても落下途中に雨雲やハリケーンなどの障害が存在すれば、作り上げた空気塊に多大な影響を及ぼすので、天候に左右されないのは空気塊の作成時のみの話です。

 天候要因による弱体化は大きいですが、基本的にどこでも使えるので環境要因に左右されることはほぼありません。また、空気塊のサイズにより熱量を、密度により衝撃を操作できるので威力の調整が容易で、戦略級魔法としてだけでなく戦術級魔法としても使用できる使い勝手の良い魔法です。

 専用のCADを使うようですが、おそらくは特殊な標準補助を搭載しているのでしょう。「対流圏と成層圏の境界」という物理的な距離の差だけでなく、「空気」という視えない物を標準しなければいけないので、標準の難易度は随一かもしれません。 

深淵〈アビス〉

 日本の民間組織である十師族”五輪家”の五輪 澪は、作中終盤始めまでは日本で唯一の国家公認戦略級魔法師でした。強大な魔法力に反比例するように本人の肉体は虚弱で、その影響で兵器として安定とは程遠い状態になっています。

 しかし、その魔法は海上戦力を一方的に壊滅させられる威力を持ちます。プロセスは描写されていませんが、簡単だからでしょう。

  1. 移動系魔法:水面を球面上に陥没を引き起こす下方への移動工程

 以上が魔法プロセスです。めちゃくちゃ単純ですね。

 移動系の流体制御魔法により最大半径1kmの陥没を引き起こすので、発動範囲の艦船は最大1km落下し転覆させることが可能です。また、範囲外の艦船も魔法解除による水平面復帰により巨大な波を発生させて、沈没させることが可能です。そのため、理論上は一撃で一個艦隊を壊滅させることが出来ます。また、地下水を対象とすることで地上に陥没を引き起こすこともできます。

 弱点はトゥマーン・ボンバと同じく「効果範囲と同規模の水が必要」と言う点と、なによりも前述の通りの「術者の虚弱体質」にあります。前者は日本が島国であり海に囲まれていることから海上戦力への防衛手段として運用すれば良いですが、後者はどうにもなりません。単に体力がないだけなんですが、既に25歳を過ぎた女性に体力作りは期待できないでしょう。

 解決策として、他に深淵アビスのオペレーターを用意するというものがありますが、深淵アビスは単純故に魔法力に左右されやすいので代替人が居ないというのが現状です。

海爆〈オーシャン・ブラスト〉

 作中終盤、劉麗蕾の次に国家公認戦略級魔法師となった十師族”一条家”の一条将輝をオペレーターとする魔法で、新ソ連の日本侵攻への対抗策として達也が開発し、吉祥寺真紅郎が一条将輝用に完成させています。「トゥマーン・ボンバ」の項でチラッと言ったように「チェイン・キャスト」を流用しているので、「新ソ連への対抗手段なのに新ソ連ベゾブラゾフの技術を使う」という皮肉の利いた魔法となっています。

 魔法の内容はトゥマーン・ボンバの攻撃手段である「酸水素ガスの燃焼」を「海水の気化」へ変更しているので、「海上用超広域”爆裂”」と称されています。ちなみに”爆裂”は「対象内部の液体を瞬時に気化」させることで対象を破裂させる発散系魔法です。

 魔法プロセスは深淵アビスと同様に単一工程でしょう。

  1. 発散系魔法:対象領域内の液体を気化させる発散工程

 プロセス自体は単純ですが、トゥマーン・ボンバと同じく魔法式が無数に展開されるので範囲は膨大で、テスト時には1000m(縦)×500m(横)×3m(高さ水深)となる1500km3の範囲を爆破していました。

 対象は液体ならば水以外でも関係なく爆破可能なので、トゥマーン・ボンバとの差別化点は「対象の組成を無視できる」点です。これはメリットに見えますが、何にしろ攻撃範囲に液体が存在しなければならない以上、海上以外での運用が難しいので海水以外の起爆はほぼないです。

 また”海上用”となっていますが、トゥマーン・ボンバのように爆裂工程の前に材料を散布する準備工程を入れれば、海上以外でも使用可能です。例えば、ベゾブラゾフが行ったように雨雲を材料にすれば上空での起爆が可能です。

シンクロライナー・フュージョン

 ブラジル軍の国家公認戦略級魔法師である「ミゲル・ディアス少佐」がオペレーターとなる魔法で、「シンクロライナー核融合」とも呼称されているようです。また、この魔法のオペレーターである「ミゲル・ディアス少佐」は一人ではなく、双子の兄ミゲルと弟アントニオを指しています。つまり、シンクロライナー・フュージョンは二人一組で発動する魔法ということです。

 この魔法のプロセスは作中で明かされていませんが、概要は以下のようになっています。

  1. 高密度の水素プラズマ雲を数キロから数十キロメートル離れた位置に発生させる
  2. プラズマ雲を中間地点へ移動・加速させ衝突させる
  3. 衝突したプラズマ雲に圧力を加え続ける

 また魔法の構成要素は「プラズマ化」、「拡散防止」、「移動」と明記されているので、これから具体的な魔法プロセスを予想すると以下のようになると考えられます。

  1. 収束系魔法:水素ガスを集める収束工程
  2. 振動系魔法:水素ガスをプラズマに分解する振動工程
  3. 収束系魔法:プラズマ雲を高密度に圧縮する収束工程
  4. 移動系魔法:プラズマ雲を衝突させる移動工程
  5. 加速系魔法:衝突したプラズマ雲に圧力を加える加速工程

 1は前述の魔法構成に明記されていませんが、プラズマ雲は「高密度の水素」でなければならないので”水素”の収束工程があると予想しました。

 2は「ムスペルヘイム」が「領域内の気体分子がプラズマに分解されるまで振動数を上げる振動系魔法」だったので、大規模なプラズマ雲を発生させるならば振動系魔法が向いていると考えました。

 3は作中の描写でプラズマの圧縮を行っていますし、プラズマの自由度を考えれば放置すると拡散してしまうので、”プラズマ雲”の収束工程が必要でしょう。

 4は単純に静止した物を移動させるので移動系魔法です。

 5もまた前述の魔法構成に明記されていませんが、衝突で核融合を発生させるために進行方向へ圧力を掛け続けるには移動系魔法で定義破綻すると考えたので、移動系魔法で発生させた運動ベクトルを衝突前に加速系魔法による運動の維持が必要だと考えました。

 移動系魔法が定義破綻すると考えたのは、移動系魔法で設定した運動がプラズマ雲の衝突時に停止あるいは減衰するためです。移動系魔法では「物体が〇m/sで〇方向に移動する」という定義が前提にあるはずなので、例え一瞬でも移動速度が変化すれば魔法が中止されるはずです。

 ですが下記でも説明したように、加速・加重系統の魔法は運動ベクトルではなく運動量エネルギーを操作する系統なので、移動速度が変化しても定義破綻は起こりません。作中でも「圧力を掛け続ける」とされているので、違っていても加重系でしょう。

 この魔法が二人一組で行う魔法である理由は「移動方向が真逆となる二つの魔法」だからです。これは、数キロメートル離れた地点に高密度のプラズマ雲を発生させ、収束、移動というプロセスを二重に踏む必要があり、魔法力が足りないからでしょう。

 そして双子である理由は「一卵性双生児の魔法師の特異性」にあると考えられます。この魔法は移動コースやタイミングが少しでもずれると失敗します。また、要求される事象干渉力も同等である必要があると考えられています。

 以上の問題点をクリアするのは普通の魔法師には難しいですが、一卵性双生児の魔法師は普通には無い特異性があるので可能です。特異性として挙げられるのは、魔法演算領域の共有による魔法威力を乗積する現象や、普通ならば他者から魔法を掛けられた場合に損なうはずの自己情報強化が互いに魔法をかけた場合は損なわないという現象があります。

 この魔法のオペレーター候補として七草香澄・泉美の双子が挙げられています。

オゾン・サークル

 イギリスのウィリアム・マクロードとドイツのカーラ・シュミットがオペレーターの魔法で、EU連合分裂後もイギリスと手を組み続けていたオーストラリアにも渡っていることから、その他EU諸国にもオゾン・サークルのオペレーターである非国家公認戦略級魔法師が居そうです。

 高濃度オゾンガスを瞬時に大量生成し対象を包むことで、急性ガス中毒を引き起こし戦闘不能にする魔法です。この魔法の難点はオゾンの発生ではなく、それを屋外のような開放空間で高濃度に、それも対策が追い付かないほどの速度で発動することなので、魔法プロセス自体は単純そうです。

  1. 放出系魔法:酸素を励起状態にする電子の反放出工程
  2. 吸収系魔法:酸素をオゾンガスにする吸収工程

 オゾンガスは、紫外線の保有する高いエネルギーを低圧状態の酸素が吸収することでイオン化し、酸素イオンがその他の酸素分子と結合することで発生します。なので、1で電子を与えるイオン化の反放出工程を行い、2で酸素イオンと結合する吸収工程を行うと考えました。

 プロセスは簡単ですが、前述の通り生成量と生成速度がネックのようです。とはいってもオゾンガスの致死量は50ppm=0.005%なので、大気中に21%の酸素があることを考えればその他の戦略級魔法よりも難易度は低そうです。

 環境要因にも左右されにくそうですし、殺傷性も低そうなので使い勝手は良さそうです。


 以上で、今回の国家公認戦略級魔法の解説は終わりです。こうしてプロセスを考えてみたら、あまり工程数の無さそうな魔法が多くて驚いています。ですが、戦闘用魔法は基本的に速さを優先する為に単一系の魔法が多いことを考えれば不思議ではありませんね。

 まあ、自分の考察が合っているかは分かりませんが。

 最後までお付き合いいただきありがとうございました。

 誤字脱字等の間違い、ご意見等ありましたらコメントでご指摘お願いします。


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