魔法の工業技術応用例

自己解釈・妄想録

 魔法科高校の劣等生における続編である【メイジアン・カンパニー】は、絶対的少数マイノリティである魔法資質保有者メイジアンの社会的な立場を引き上げるための活動を行う話となっています。メイジアンの立場が低い理由は「一般市民マジョリティに魔法が身近でなく、権利主張しようにも支持を得られない」からです。主に軍での兵器利用や警察での鎮圧にしか用いられないので、

  1. 政府が魔法の兵器利用を推進する
  2. 一般市民は魔法へ暴力的なイメージを抱き、メイジアンを忌避
  3. 法による「メイジアンへの行動制限」と「魔法の制限」が支持され始める
  4. その他大勢は無関係であり魔法に対して無関心なので、消極的支持を行う
  5. 制限によりメイジアンとマジョリティの関わりが薄くなる
  6. メイジアンは軍や警察ばかりに魔法師メイジストとしての生きがいを求める
  7. 1に戻る

という負のスパイラルに嵌っていました。

 これは魔法を一般社会に組み込めば解消できるんですが、魔法が社会に進出してすぐに世界大戦が始まり魔法を兵器利用せざるを得ない状況に各国がなったため、戦争が終結し余裕が出来て気づいた時にはメイジアンとマジョリティの溝は修復不可能な状態になっていました。前作では魔法師排斥による暴動や魔女狩り描写も存在し、それに対抗する魔法至上主義が立ち上がるなど色々と歯止めが効かない状態でした。

 【魔法科高校の劣等生】ではこの状況、というよりもメイジアンの「人としての権利」が制限され、社会的弱者に貶められている状況を打開する”権利回復”が序盤からの一貫した主人公司波達也の目的でした。そのための方向性として、非軍事的事業にただ魔法を組み込むのではなく「経済的に必要不可欠な存在になる」こと必要です。その手段が”ESCAPES計画”であり、魔法により稼働する熱核融合炉を用いたエネルギー産業への進出という形になりました。

 社会のエネルギー需要にメイジアンの存在を絶対のピースとして組み込むことで、社会に必要不可欠な存在だと認識させるわけです。もちろん”核融合炉”ですから、核分裂を利用した原子炉や作中でメインプラントとなっている太陽光発電とは桁違いのエネルギー密度と安定性になるので、より良い生活のために皆が欲しがります。

 その策は成功し、その実現性により経済を大きく回すことが出来る大企業の資産家たちを味方に付け、大規模な事業として確立しています。

 しかし、これは第一歩です。メイジアンの支持を得るためにマジョリティとの溝を無くすきっかけにすぎません。つまり、本命となる第二射があるわけです。

 それが”メイジアン・カンパニー”という「メイジアンのための非軍事的職業訓練および紹介」事業を手掛ける会社の設立というわけです。政府無認可ですが、まずは専門学校を創設して訓練と斡旋を行うようです。

 なお無認可の理由は達也が日本政府をガン無視していて仲が悪いこともあるでしょうが、何よりも達也が社長へと就任した会社ステラ・ジェネレーターへと出資している企業がおそらくはメイジアン・カンパニーにも出資しているようで、出資企業が積極的な受け入れを約束しており学歴にならなくても特に不便は無いから、だと考えられます。

 メイジアン・カンパニーが運営する最初の学校は「魔法を工業技術に利用する知識と方法」を教える”魔法工業技術専門学院”、略称「魔工院」となります。魔工院では、魔法を利用した工業技術を学びますが、魔法科高校の授業との違いは主に”実践的”であるかどうかです。当然ながら魔法科高校の魔法の制御訓練は、基礎技能の把握や向上に重点を置いている”実験的”な授業です。

 ですが魔工院では、高校で学べる魔法技能を既存の工業技術に応用するための実践的な講義となります。また、魔法で「工業機械」を「人とCAD」へと置き換えることになるので、「機械の維持・運用費」が「CADのメンテナンス費と人件費」に代わります。

 CADのメンテナンスはどの程度の費用が掛かるのかは明記されていませんが、魔法科高校の生徒でも十分な魔法工学の実習を受けていれば可能です。なのでメンテナンス費は嵩張るどころか、小さく済むでしょう。というか、会社にCADのメンテナンス専門の部署を置いて安く済ませる動きが出てくれば、メイジアンの非軍事的職業の選択幅はさらに増えます。

 そんな感じで、魔法を工業技術に応用するのはとても”実利的”なことにもなります。

 前置きが長くなりましたが、今回は上記の実践的で実利的な魔法はどんな工業技術に応用できるのかを色々と挙げていきます。

 長くなりますが、最後までお付き合いください。


工業技術とは

 まず工業とは簡単に言えば「製品を造る事業」ですが、製品は物である必要はありません。例えば、みんなが思い浮かべるのは鉄骨や建材、それらによって造られる機械や建築物などでしょうが、それだけでなくエネルギーや情報等も含まれます。

 定義は難しいですが、おそらくは「社会を形成する上で必要最低限の”もの”を造る業種」でしょう。安定したエネルギーも豊富な情報も平和な社会を形成する上で前提として必要な物となるので、学問には「エネルギー工学」や「情報工学」などの科目があります。

 とはいっても割合として占めるのは大型機械や輸送物を造る重工業、それらの部品や日用品を造る軽工業がほとんどのようです。

応用例

 やっと本命の応用例に入りますが、色々と出せば多くなりすぎて辛いので無作為に選定した複数の工業分野を一分野一例で解説・考察します。ちなみに、例に使う”現代魔法”の解説は以下の記事になります。

重化学工業

 工業のうち、自動車工業、鉄鋼業、機械工業、造船業などの比較的重量のあるものを製造する工業は「重工業」とされ、石油の精製などを通じてプラスチックや薬品などを作る工業は「化学工業」とされています。なので「重化学工業」とは、金属工業、機械工業、化学工業などの総称になります。とはいっても定義された時代との齟齬で、重化学工業という分類自体が死語のようですが。

 金属工業ならば、鉄か非鉄かに関わらず金属の”精錬純度を上げる工程“などで純度や合金含有率を調整し、その後切削や圧延などによる成型を行います。また機械工業ならば、精製した金属を様々な機械部品へと加工します。さらに化学工業ならば、有機ならば有機化合物からのガソリンやプラスチックなどの精製、無機ならば食塩からの水酸化ナトリウム精製などがあります。

 魔法を組み込む例として、鉄骨の製造を用いてみます。

例:鉄骨

 大まかな鉄骨の製造手順は以下です。

  1. 原料採取…鉄鉱石や鉄スクラップ等の採取および選別
  2. 製銑工程…鉱物から不純物を抜く
  3. 製鋼工程…含有炭素量の調節
  4. 鋳造工程…鉄鋼を溶融し、鋼塊を精製
  5. 加工工程…切ったり削ったりして鋼塊を製品へ加工

 ここに魔法を組み込むならば以下のような手順を考えられます。

  1. 収束系魔法で採取した鉱石から鉄含有率の高い物を選別
  2. 発散系魔法で鉄および炭素のみ溶解させ、収束系魔法により個体の不純物を分離し溶解した鉄と炭素を混合
  3. 吸収系魔法により炭素含有量を調整し、収束系魔法により飽和した炭素を分離
  4. 移動系魔法の流体制御により溶解している鉄鋼を成型
  5. 振動系魔法により溶解した鉄鋼を凝固

 これは他の物質でも同系統の魔法で処理できます。また組織制御などは冷却速度で調整できますし、表面処理は吸収系魔法で組成を操作できます。さらに化学工業で行う電気分解などの湿式処理も吸収・放出系統でカバーできます。

 魔法を使えば炉のような大型施設や酸化剤などの触媒が不要になるので、維持費や廃棄量が低く抑えられます。

 以上が重化学工業の魔法組み込みの一例です。

軽工業

 前項の重工業に対して、重量の軽い物を扱うのが軽工業です。なので金属ではなく綿、絹、麻、羊毛などの繊維や衣類だけでなく食料品や雑貨が軽工業の製品です。つまり繊維工業、食品工業、雑貨工業などが軽工業に当たる訳です。

 繊維工業はナイロン,ポリエステル,アクリルを代表とする合成繊維の生産だけでなく、その後の衣類の作成を含みます。食品工業は農・畜・水産物を原料として、それを処理加工して加工食品を製造します。雑貨工業は陶磁器、履き物、装身具、家具のほか、玩具(がんぐ)、文具、楽器といった「最終消費を目的とする加工部門の商品群のうち、他の主要品目分類に含みえないもの」を”雑貨”として製造します。

 おそらくは一番想像しやすいのが食品工業だと思うので、この項での魔法組み込む例は食品工業ので考えましょう。クッキーの生産が一番分かりやすそうです。

例:クッキー

 クッキーの大まかな製造工程は以下です。

  1. 原料混合
  2. 生地調製
  3. 生地成型
  4. 型抜き
  5. 焼成

 ここに魔法を組み込む場合は

  1. 収束系魔法の反収束プロセスで原料を混合し生地のベースを作成
  2. 発散・吸収系魔法で調味料などの添加物を混合させ、さらに吸収系魔法で生地に混合
  3. 加重系魔法で生地を成型
  4. 収束系魔法で生地を型上に固定、さらに振動系魔法で型外の生地を破壊・除去
  5. 振動系魔法で空気を加熱し、発散系魔法で湿度を低下

というのが考えられます。食品は分量や時間が命なので、それを狂いなく正確に調整できる魔法は食品工業に向いていそうです。また、収束系魔法による包装内の空気組成の調整により保存期間を延ばすこともできそうです。

電子機械工業

 これは電気の発生,輸送,利用に関する機器を製造する工業です。「電気の発生」ならば発電機、「電気の輸送」ならば配線、「電気の利用」ならば家電製品が代表例でしょう。

 基本的に機械製品は全体の製造工程が長く、複雑になるので簡単な説明には向かないんですが、配線ならば簡単なので、それを魔法を組み込む例として挙げます。

例:配線

 配線の代表は銅線だと思うので、銅線を紹介します。大まかな製造工程は以下になります。

  1. 原料採取…銅鉱石の採取
  2. 溶錬工程…選別した精鉱を溶融させ、酸化銅を採取
  3. 電解精製…酸化銅を硫酸に浸出させ、硫酸銅を電解し高純度の銅を採取
  4. 溶解工程…銅を溶融
  5. 鋳造工程…溶融した銅を鋳造
  6. 圧延工程…鋳造した銅を圧延し、成型
  7. 巻取工程…完成した銅線を巻き取る

 ここに魔法を組み込む場合は

  1. 収束系魔法で銅鉱石を採取
  2. 発散系魔法で溶融後、収束系魔法で選別
  3. 吸収系魔法で酸化を防止
  4. 以下「鉄骨」と同じ

となるでしょう。基本的に銅のような酸素親和性の高い金属の精練には溶液による電解酸素の除去が不可欠ですが、魔法ならば吸収系魔法の反酸素吸収プロセスで簡単に還元できます。というか放出系魔法で電解を強制、吸収系魔法で化学反応を強制できるのがずるいですね。


 魔法の工業的応用例についての考察は以上で辞めときます。考えれば考えるほど沼に嵌る…。

 例では工程全部に魔法を適用させていますが、魔法を組み込まない方がローコストで抑えられるところはあると思います。あくまで、「魔法を組み込むならばこんなのあるのでは?」というだけなので悪しからず。

 他にも一応、「理想状態の真空作成」とか「超緻密表面処理」とかが考えられます。理想環境、理論値を創り出すのに収束・発散、吸収・放出系統魔法が強すぎる。

 また、これは現実の2020年代に沿った話で、世界大戦を経て技術革新も起きたであろう作中の2100年とは全く異なります。なので、作中ではどんなことに応用するのか?という直接的な考察は無理です。きちぃ。

 最後までお付き合いいただきありがとうございました。

 誤字脱字等の間違い、ご意見等ありましたらコメントでご指摘お願いします。


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